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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第22章 落花流水 前



驚き過ぎて咄嗟に対応出来なかった凪の口から言語にならない音が漏れているにも関わらず、光秀は熱っぽい眼差しを間近な距離感で凪へ注いだ。

「寂しい思いをさせた詫びに、これを」

どんな女性も一発で蕩ける甘やかな微笑を刻んだ光秀が、先程買った蘭の簪を芙蓉の隣へ添えるように挿してやる。黒髪を華やかに飾るそれは贔屓目無しにもよく似合っており、そんな凪を映した男の眼が綻んだ。

「よく似合っている。……だが、お前という大輪の花の前では、どのような精巧な細工であっても褪せてしまうな。困ったものだ」

(もう、この人なに!?)

切なげに眇められた眼がますます熱を帯び、大きな手のひらが相変わらず固まった状態である凪の頬を優しく撫でる。美しい花を愛でるが如く、柔らかな手付きと男女の睦まじい様を前に、店内に居た例の女性以外の客達は恍惚とした溜息を漏らした。凪の大根ぶりを知っている光秀としては、下手に何やかんや言われるより、固まっていた方がある意味都合が良い。光秀に頬を撫でられ、顔を赤くする暇もなく呆然としてる相手を視界に捉えつつ、内心で小さく笑った男は視界の端でぶるぶると震えている女へようやく改まった様子で振り返る。

「……ああ、紹介が遅れてすまない。こちらは茶の湯の茶器を扱う老舗の商家、由屋(ゆかりや)のご令嬢、静(しず)殿だ」
「は、初めまして…凪です」

散々目の前でやらかした後で、かなり今更感のある紹介をした光秀の言葉を耳にし、混乱状態からようやく回復して来たらしい凪がちらりと例の美人な女性────お静へと向き直った。

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