• テキストサイズ

❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第22章 落花流水 前



対する光秀はというと、口元にこそ笑みを浮かべてはいるが、その金色の目がまったく微塵も笑っていない。声色が普段凪が耳にしているものよりも平淡になり、当たり障りのない言葉を返している。
光秀が思わせぶりな態度をしていない、という事が唯一の救いであるが、凪としては実に複雑だ。中身などはさておき、自分よりも余程女性らしく、また大人っぽい容姿と雰囲気、体型を持つ彼女と、すらりとした長身の美形が並んでいる様はかなり絵になる。光忠辺りに散々色気がない、顔は可愛いが何処にでも居る、と貶されていた凪の心がきしりと小さく軋んだ。

「本日はどのような御用向きでこちらへ?」
「…ああ、それは」

女のその問いが、真っ赤な紅を乗せた唇から溢れる事など予想済、とばかりに光秀が金色の眼を柔らかく眇める。向けられた事のないぬくもりと熱のこもった感情が窺える男の眸を前に、女はどきりと鼓動を跳ねさせ、頬を朱に染めた。彼女の反応を目の当たりにした後、絡められていない方の片手でそっと彼女を離し、抜け出す事など容易い拘束をするりと解いた光秀は、色気を過分に含んだ伏目がちな流し目をそっと棚の傍で立ち竦んでいる凪へ向ける。

「愛しい連れ合いと、ひとときの逢瀬を楽しんでおりました」
「!!?」

光秀の金色の眼が自分へ真っ直ぐに注がれ、色んな意味で再び身を固めた凪を尻目に、男は店主から勘定を済ませた例の簪を受け取った後で凪へ距離を詰めた。ちらりと垣間見た光秀の表情が実に愉しげな様を浮かべている事に気付き、内心で激しくたじろぐ。

(なんか…凄く面倒臭い事が起こる予感…)

胸中で溢した言葉を体現するかの如く、凪の隣へ並び立った光秀はそっとその細腰に腕を回して自らの方へ引き寄せた。

「一人で待たせてすまなかったな、俺の姫君」
「ひ…っ!?」

抱き寄せた凪の身を、硬く広い胸板へ寄りかからせるような体勢にし、目を白黒させて見開いている相手の耳朶へ、囁きと呼ぶには大きめな、割と普通の声量のままで告げる。

/ 903ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp