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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第22章 落花流水 前



(せっかく光秀さんとの初デートだし、記念にどっちか買って行こうかなあ)

蘭は小さな花が幾つも垂れ下がる形で連なり、上部が白の蘭で下部が水色の蘭になっている。白の飾り紐が花弁の形に結われていて、それが蘭の細工の下に来るようになっていた。一方の花菖蒲は、三輪の菖蒲が飾られている。淡い紫と薄い紫の色合いが美しく、房付の紐が垂れ下がっているのが特徴だ。
どちらも可愛らしく、なかなか選び難い。散々交互に目移りをさせた後、凪は蘭の方を選び取った。

「それが欲しいのか」
「…え!?いや、これは自分で…─────」
「俺がお前に買ってやりたいんだが」

凪が簪を取った際、隣で見ていた光秀が告げる。記念に買って行こうと思っていた凪が途中まで言葉を言い募るも、重ねられたそれに思わず口を噤んだ。

「だってさっきの甘味処でもお勘定させてくれなかったですし、薬草屋さんの時も…」
「それなら、その薬草屋で騒ぎに巻き込んだ詫びだとでも思えばいい」
「別にあれは光秀さんの所為じゃないですよ」

先程入った甘味処でも光秀はさらりと勘定を済ませて出て来てしまったのだ。割り勘男とかマジで無理、絶対やめた方がいい、とは現代に居る歴史オタクな友人談だが、割り勘男どころかあれこれ貢がれている気がしてならない凪は、光秀がせめて欲しいものでも言ってくれればいいのに、と何処となく複雑な面持ちを浮かべる。
加えて、英屋の一件は別に光秀の所為ではない。どちらかと言えば彼も被害者の一人だ。首を振って否定する凪を前にして、光秀はふと真摯な面持ちを覗かせた。驚いた様子で眼を見開く凪を他所に、男は相手を真っ直ぐ見つめる。

「せっかくの逢瀬に水を差した。すまなかったな」
「そんな謝る事じゃ…私全然気にしてませんから」

まさかそこまで気遣ってくれていたとは考えも及ばず、凪は少しでも光秀の気が晴れるようにと笑みを浮かべた。気にした風もなく微笑む彼女を前にし、光秀は緩慢な瞬きをひとつした後、手を伸ばしてそっと凪の手から蘭の簪を取る。

「では、これは俺が買うとしよう」
「わかりまし……えっ!?」
「お前はその辺りの棚でも見ているといい」

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