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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第22章 落花流水 前



華美を好まないのか、と一瞬考えた光秀だったが、そうかと思えば彼女の興味は今度は二本挿しの平簪の方へ向かう。物珍しさの方が勝っているのだろう、色々なものを見ている凪の視線の先は辿っていてもなかなか飽きない。

(薬草ばかりに興味を惹かれていたが、存外こういった娘らしいものも嫌いではないらしい)

小間物屋に並ぶ商品の内、櫛や化粧品の類へ意識が行かない辺り、櫛は摂津で光秀が凪の為にあつらえたものをそのまま使っている事や、化粧品についてはおそらく現代から持ってきた荷の中にある為、あまり今は求めていないという事が見てとれる。そんな中、ある一点で凪の視線がひたりと止まった事に気付き、光秀が彼女の視線の先をそっと追った。

「可愛い…」

ぽつりと溢した先にあったのは、花や鳥、蝶などの様々な飾りを、小さな布を幾重にも重ね、組み合わせる事で形作った簪である。凪が挿している真白な芙蓉もこの類の細工で作られていた。小さな玉飾りの簪よりも、大輪の花を咲かせるそちらの方が凪には似合いだと芙蓉を贈ったが、あながち彼女の好みそのものからは逸れてはいなかったらしい。

「こっちは蘭かな…これは、花菖蒲?」
「花菖蒲の細工とは、少々珍しいな」
「そうかもしれないですね。飾りは菊とか桜とか…梅が多い気がします」
「簪は縁起担ぎや魔除けの意味も兼ねている」
「例えば?」
「菊は長寿、桜は繁栄、梅は豊かな日々。それ等の花が細工として多いのは込められた意味によるものだろう」
「へえ…そうなんですね」

関心した様子で隣に立つ光秀を見上げ、凪が興味深そうな面持ちで大きな双眼を瞬かせる。ぱちぱちと長く艷やかな睫毛を上下に揺らした後、再び意識を棚に向けた凪は今の自分にはあまり必要のない験担ぎであるなと考えた。

(あんまり欲張りすぎてもね)

縁起を担ぐ事は決して悪い事ではないが、いずれの三つとも今欲張るような事ではなく、これから自らがどのようにして過ごしていくかによって変わる気がすると考えたのだ。縁起云々抜きにして考えればどの花も愛らしくて綺麗だが、やはり凪の目を惹いたのは最初に留まった蘭と花菖蒲である。

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