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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第21章 熱の在処



跡形もなく燃え消える文を見届けた後で男は行灯の灯りを落とし、手元の燭台の炎も次いで扇ぎ消した。暗がりに満たされた室内の中、そっと文机前から立ち上がり、縁側の障子を閉ざした後で凪の部屋へ向かう。足音を立てずに室内へ踏み入れれば、彼女はすっかり寝入っていた。

横向きの体勢で眠っている凪の隣へ身を滑らせ、自らも褥へ入れば、片手を額へあてがう。まだ少しほんのり熱い気がしたが、だいぶ平熱に近くなって来たらしい凪の前髪をそっと直し、彼女の方へ向きつつ身体を横たえた。
意識を向ければ、凪は穏やかで小さな寝息を立てている。普段は襖側へ向き、光秀には背を向けて眠っている凪が、今宵は自身の方を向いて眠っていた。その、ほんの些細な変化が凪の心の変化を表しているようで、先程まで剣呑な色を浮かべていた眸を僅かに綻ばせた男は、そっと彼女の腰に腕を回し、そのまま起こさぬよう気遣いつつ引き寄せる。
腕の中の存在は、暖かく心地良い。抱きしめているだけで、触れているだけで心が安らぐ存在をこの腕に得るなど、思いもよらなかった。

(この汚れた手で幸福を掴むなど、考えた事もなかったが)

「…おやすみ、凪」

一度触れてしまえば、手に入れてしまっては離す事など出来る筈がない。瞼を伏せて唇を寄せた。額に触れたそれは充足感を満たし、光秀の心を暖かくしていく。その心地よいぬくもりを腕に抱きしめながら、男はただ掛け替えのない存在の穏やかな吐息に鼓膜を揺らし、ゆっくりと意識を沈めていったのだった。


───────────────…


─────遡る事三日前、越後春日山城。

城内の大広間、家臣達を集めて軍議や宴を開く等の目的で使われるそこには、五人の男達が顔を合わせる形で向き合っていた。上座で胡座をかいているのは元越後領主、上杉謙信と元甲斐領主、武田信玄。彼らに向かい合って座しているのは猿飛佐助と真田幸村だ。廊下へ面した襖は一枚だけ開かれており、庭先に面する廊下の柱へ背を寄りかからせていた今川義元は、顔を付き合わせる、というよりもその場に一応居合わせているといったていで身を置いており、時折向けられる幸村の咎めるような視線を完全に素知らぬ振りでやり過ごしている。

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