• テキストサイズ

❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第21章 熱の在処



「………俺を指名した狙いは、俺の持つ何がしかの情報か、あるいは摂津で回収せずにいた種が芽吹いたか」

文を開いた状態で文机の上に置き、片手を自身の顎先へあてがった。鋭い金色の眸が行灯の灯りに照らされ、鈍く光る。

「もしくは狙いは俺自身ではなく…─────」

確信に至るには判断材料が足りない。剣呑とした色を帯びた低い声色で呟きを落とし、手元の文を折り畳み直した。そうして表面に来る桜の花弁へするりと指先を這わせた後、躊躇いなく燭台へそれを焚べる。開いただけで身体にまとわりつきそうな甘く芳しい香りも、綴られた文字もすべてが不愉快だ。じりじりと黒く焦げて行く文に焚きしめられた香りが、媚びたそれではなく、ただの焦げたものへと変わって行く。じゅっ、と微かな音を立てて文が形を失くして行き、そうして消炭になると燭台の炎へ軽く投げ入れた。今度こそ跡形もなくなったそれを呑み込み、炎を幾分大きく燃やした燭台の灯りが風に揺れる。

(文の送り主、それが届けられた刻限…俺の元へ届けられたものはすべて家臣によって記録されている。だが、あの文が届けられた記録はなかった。つまり、あれは直接この文机へと置かれたという事だ)

光秀が文に気付いたのは、戦の後処理から戻った夕刻付近。縁側の板間に凪が転がっていて、言葉を交わし、湯浴みをしに向かった後である。御殿を留守にしている間、信用の置ける家臣によって一日の終わりに文机の上に異常がないかの確認をさせているが、御殿へ戻る前夜には置かれていなかった事も確認済だ。そうなると戦を終え、御殿へ戻ったその日に文が置かれたという事になる。

(……凪がここへ戻る前か、戻った後か)

思考を巡らせながら、光秀はひやりとした感覚に眉根を寄せた。もし、凪が居る間に、何らかの形であの文が置かれていたのだとしたら。

(対処を急ぐ必要があるな)

午前中、凪が目を覚ます前にしたためておいた文を一通、机の引き出しから取り出した。畳まれた文の表面へは同じように水仙の花弁をわざと千切り、それを三枚貼り付けた状態とした意味深なものを文机の端、書簡の影に置く。

/ 903ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp