第21章 熱の在処
なに、とあまり自分の周りでは耳馴染みのない言葉を問えば、それは中途半端なところで遮られた。すらりとした節立った光秀の長い人差し指が凪の口元へあてがわれる。思わず口を噤んだ彼女の丸い眸を見つめ、指先を離した後で上体を軽く屈めた男が耳朶へ唇を寄せた。
「俺にとって、代え難い存在という意味だ」
鼓膜を揺らした音は甘く優しい。鼓動が大きく跳ね、眸を瞠った凪が褥の中でぎゅっと拳を握る。光秀のくれた言葉は、それこそ凪にとっても代え難い。誰も知らない歴史の片隅、後世にはきっと伝えられる事はない尊い想いを越えるものなど、この先出会う事はないだろう。そんな事を思わしめる程の、喜びと幸福を噛み締め、凪が紅い顔をそっと上げて光秀を見つめた。ゆらゆらと揺れた双眼の奥、彼女の目に灯った想いを見て取り、光秀が微笑する。
「……また、熱が上がったかもしれません」
「おやおや、困った熱だ。お前を苛むものはすべて取り除いてやりたいところだが、さて…どうしたものか」
「光秀さんの所為です」
「ならば、そう容易に冷まさせる訳にはいかないな」
赤く熟れた頬へ触れるだけの口付けを落とし、何処までも深く溺れさせるが如く、熱を注ぎ続ける気しかない男は物言いたげな凪の頭を優しくひと撫でして、瞼を伏せながら綺麗に笑った。