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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第21章 熱の在処



意地の悪い眼差しで双眼を眇めていても、その視線は何処までも柔らかく、甘かった。唇を軽く押されていた凪は、つい口を噤んで相手を見つめる。こんな事では、幾ら苦い薬湯を呑んだところで熱など下がりそうにない。

「……光秀さんと居ると、熱が永遠に下がらない気がして来ました」

幸せで甘く、優しい熱に包まれる度、自分自身の熱も比例して加速して行くのだから。指先が離れていったタイミングで小さくぼやけば、盆や桶を一度片付けようと動いていた光秀の動きが止まる。光秀の方を向いた、横向きの体勢で身体を横たえている凪を見て、男が些か神妙な顔を浮かべた。

「ほう…?それは困ったな」
「…?」

双眸をぱちりと瞬かせた凪を他所に、すっかりぬるくなった手拭いを回収した光秀が静かな流し目を彼女へ向け、形の良い薄い口元にゆったりとした笑みを刻む。

「早くお前の具合が良くならなければ、お前を思うまま抱き潰せない」
「…だ、抱き潰す!?」

(潰すってなに!潰すって…!!)

とんでもない事をまたもやさらりと告げた光秀の金色の眸に妖艶な色が過ぎった。男の匂い立つような色気を視線だけで過分に感じた凪の耳朶が一気に赤く染まる。文字通り、本当に熱が下がる気配がない自らの身体を慮っているのか、あるいはからかっているのか。おそらく両方だろうが、ぎょっとして目を白黒させる凪の反応を観察し、愉しそうにくすくす笑う光秀の涼やかな声が彼女の鼓膜を打つ。別に初めてでも何でもない為、勿体振る必要性など何処にもないが、不穏な発言には不安しかない。

「俺も、お前相手では理性など信用性に欠けるというものだ。せいぜい大人しく看病に励むとしよう」
「そ、そういうの関係なしに、普通に看病してくださいよ…!」

理性など、散々添い寝していた自分相手ではあまり関係ないのでは、とすら考えていた凪へ突きつけるかの如く、冗談とも本気ともつかない調子で瞼を伏せた光秀へ、照れ隠しのように声を上げた。上掛けの着物を軽く口元の方へ引き上げた凪を見て、光秀が囁きを落とす。

「当然だろう。お前は俺の連れ合いだからな」
「だからその、連れ合いって」

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