第21章 熱の在処
優しい糖の味は金平糖とは少し違って、甘さ控えめな印象の飴といったものの方が近い。南蛮との貿易によって砂糖の類いが一部で卸されている事もあり、他国に比べて安土はそういったものの扱いが多いらしく、有平糖もそのひとつだ。
口内に少し残っていた薬湯の苦味が、有平糖の甘さによって上書きされて行く。苦さの後、すべてを覆してしまう程の甘さを与えてくれるそれは、何処となく光秀に似ている気がした。
「美味しいです。……わざわざ買って来てくれたんですか?」
「出先で偶然見掛けただけだ。どうやらご機嫌はすっかり直ったようだな」
ころころと口内で飴を転がしつつ、面持ちを綻ばせた凪の問いに光秀が鷹揚に頷く。そうしてようやく目にする事が出来た彼女の笑みを見つめ、男が口元へそっと笑みを乗せた。
今日は朝から不調続きだった所為で、凪の表情は曇りがちだった。具合が悪いのだから当然と言えばそうだが、それ以外の理由でも、凪の表情がぎこちなかった事には気付いている。想いを通わせた事は無論、素直に嬉しく思うが、せっかくならばいつもの凪の笑顔が見たい。
「別に最初から機嫌が悪かったんじゃないですよ。なんかこう…あの時は色々考えてただけで」
(ほとんど光秀さんの事だけど。…ていうかこの飴、光秀さんがお店で選んで買ってくれたの想像したら、なんかちょっと…可愛い)
出先とは、おそらく光忠に自分の様子見を任せて出掛けた時だろうが、普通に仕事か何かだったのだろう。その最中(さなか)に自分を思い出してお土産をわざわざ買ってくれたのだと思うと、普通に嬉しい。どんな風に買ったのかな、と想像を巡らせて、つい凪がくすりと小さな笑いを零す。
「何やら楽しそうだが、そんなに気に入ったか」
「気に入りました。光秀さんも舐めればいいのに。薬湯の味、残ってません?」
「……そうだな、多少は残っている」
凪の胸中など聞かなくとも表情で分かったが、敢えて言葉にして別の方向で問えば、彼女はあっさりと頷いた。光秀へ確認するよう投げかけて来た言葉に、ほんの僅か思案した男は口角をそっと上げて肯定する。
「じゃあ…─────」