第21章 熱の在処
言いかけた言葉は、男の唇によって奪い取られた。もう今日だけで幾度交わしたか分からない口付けを受け、凪の眼が見開かれる。重なった唇の隙間から光秀の舌が入り込み、口内を好き勝手に愛撫した。途中、ころんと硬くて小さなものが舌の上を転がる。じんわりと伝わって来る糖の甘さは鈍くて光秀には然程の感慨をもたらしはしなかったが、代わりに凪の舌先がぎこちなく光秀のそれへ絡んで来た。
「ん、…ぅ……っ、んん…」
(────…ああ、確かにこれは思った以上に)
ころころ二人の舌先に転がされて溶ける飴の味より、味覚を上回る感覚的な甘さが口内へ広がって行く。舌を擦り合わせれば、応えるかの如く凪の舌が光秀のそれへぬるりと絡み、そこを軽くちゅっと吸われた。いつの間にか瞼を伏せ、縋るように着物を掴む凪の身体を両腕でしっかりと抱き締めながら、お返しとばかりにちゅ、ちゅっと数度続けて舌を吸う。びく、と跳ねる華奢な身体をそのまま褥へ押し倒してしまいたい衝動に駆られた光秀の鼓膜に、小さな声が届いた。
「……っ、あ…、」
男を誘う濡れた微かな声は、光秀の官能をしたたかに刺激する。それへ僅かに眉根を寄せた男がそっと唇を離した。唾液で濡れた唇が光る。最後にもう一度だけと唇を啄んだ後、光秀は軽く息を上げた凪の髪を優しく宥める意を持って梳いた。
「確かに甘いな」
「…は…っ、ぁ…普通に舐めれば、良かったのに…っ」
「一粒を味わうより、こうした方が俺には丁度いい」
「普通に一粒舐めれば済むだけですよ…っ」
短い感想を伝えた後、呼吸を乱した凪が物言いたげに眉根を寄せる。恥ずかしそうに染まった目元の朱が愛らしい。口角を上げてしれっと応えたそれに、彼女がむっとしながら文句を溢した。
「舐めたところで味などよく分からない。お前の唇の味さえ分かれば十分だ」
「な……っ!!?」
さらりととんでもなく恥ずかしい事を、まったく恥ずかしげもなく告げた相手に対して凪が羞恥で絶句する中、残りの飴が入った巾着を彼女の手にそっと置く。細工ものの飴である為、小さくてころころしているそれ等は、元々あまり個数自体が入っていないが、おそらくあと四粒程は残っているだろう。夕餉後の薬湯の口直しには十分だ。