第21章 熱の在処
恥ずかしいやら何やら色んな事を突っ込みたかった凪だったが、それよりも先立った感情は別のものだ。
(に、にに…苦い!!苦すぎ…!!)
苦い、とにかく苦い。羞恥を全てかなぐり捨ててしまえる程に驚くべき凶悪な苦さを誇る薬湯を飲み下す度、あまりの味に凪の身体がふるふると震える。すべて移し終えた光秀が唇を離して凪を見れば、彼女の眸はその恐ろしい味に潤みを帯びていた。
「………苦い」
「お前のお子様舌には多少きついかもしれないな」
小さく溢された頼りない声に、光秀が口角を上げる。自分の唇をぺろりと舌先で舐めた後、男があやすように彼女の頭を撫ぜた。
「ていうか、何で急に口移しするんですか!苦いけど、子供じゃないんだから、このくらい一人で飲めます…っ」
「躊躇って少しずつ飲むより、一気に済ませた方が早く終わる。……ほら、後半分残っているぞ」
「だ、だから自分で…!!」
口移しに対してようやく文句が言える状態になるや否や、凪の言い分など端から聞く気のない光秀が半分程残った湯呑みを持ち上げ、それを再び呷る。空になった薬湯の湯呑みを盆へ戻し、再び二人の唇が重なった。