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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第21章 熱の在処



いつも通りの九兵衛へ心底申し訳無さそうに謝罪を紡ぎ、途中から顔も見れなくなった凪の代わりに光秀が労いの言葉をかければ、部下は口元を綻ばせて静かに立ち去って行った。

「………居た堪れなさが凄い」
「側仕えならばよくある事だ」
「現代では馴染みがなさ過ぎて困ります…」

九兵衛はあまり気にしていないのかもしれないが、凪にすればとてつもなく恥ずかしい事この上ない。むしろ何故光秀がけろりとしているのか不思議なくらいである凪が、火照った顔を冷ますように片手で扇いで自らの顔に風を送った。そうしている間にも光秀は九兵衛が運んで来た薬湯の入った湯呑みを取る。外側に触れた際、感じる温度はやはり低かった。

「……凄い色ですね」
「お前も日頃こういうものを作っているだろう」
「そうですけど、実際に呑んだ事はないです」
「ほう?では良い経験になるな」

光秀が手にした湯呑みの中で揺れる、濃い緑色の液体を見て凪が若干引いた面持ちを浮かべる。日頃練習や研究で様々な調薬をしているが、自分で調薬するだけと実際に服用するのとではだいぶ印象が異なるらしい。まだ口にしていないにも関わらず、何処となく苦そうな面持ちを浮かべている凪を一瞥し、光秀が可笑しそうに告げた。

「仕方ない。俺が手伝ってやるとしよう」
「え、無理矢理ぐいっと行くのはちょっと…」

手伝う、という男の言葉を凪は無理矢理湯呑みを傾けられる、といった意味で受け取ったらしく、躊躇いを覗かせて首を緩く振ろうとする。が、予想外にも光秀は手にした湯呑みの中身を自らぐい、と半分程口に含んだ後、有無を言わせず凪の唇へ己のそれを重ねた。

「んん…っ!?」

重なった唇の隙間からゆっくりとぬるい温度の薬湯が注がれる。逃れられないよう片手を後頭部へ添え、瞼を伏せた男の端正な面が目前に広がり、彼女の瞳が色んな意味で瞠られた。噎せてしまわぬよう気遣いが窺える口移しは、口端から溢れる事もなく注がれる。

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