第21章 熱の在処
「ふ、ぅ……んん…っ、」
深く絡んだ状態で強く舌を吸われれば、思わず凪の片手が縋るように光秀の着物を掴む。昨夜と同じく、男の着物の衿辺りをきゅっと握った凪の首筋を優しく撫で下ろし、舌同士を擦り合わせながら男が瞼を持ち上げた。彼女の舌は、光秀の舌へ積極的に絡んで来る事はなかったが、逃げる事もしない。唾液同士が絡み合って滑りが良くなった舌の表面を愛撫した後、名残惜しむかの如くねっとり上顎を舐めた男が、ようやく口内を解放した。
「…は…っ、ぁ…」
唇を離した後、凪の柔らかくふっくりしたそこの隙間から紅い舌先がほんの僅かだけ覗く様が煽情的で、思わず触れるだけの口付けを軽く落とす。すっかり呼吸を乱した凪の顔がいっそう赤く上気する様は、きっと更に熱を上げてしまった証拠なのだろう。しかし、その熱に別の意味を持ったものも含まれていると、潤んだ眸で気付いていた光秀は落ち着かせるよう凪の頭を優しく撫でた。
凪が縋るようにして着物を掴む指先は、小さく震えている。光秀にこうして優しく唇で触れられる事が、嬉しいと感じてしまう自分自身への戸惑いと、高鳴る鼓動を持て余し、ぐるぐると回る思考を必死に整理する。
(何度こうやってされても私…結局、嫌じゃない)
ぎゅう、と胸の奥が押し潰され、切なくなった。抜け落ちた幾つかのピースが、かちりと微かな音を立ててひとつずつ埋め込まれて行く感覚に、乱れた呼吸をそっと漏らす。
「……お前は、何か勘違いをしているようだが」
光秀の声が鼓膜を震わせた。髪を梳く指先の優しさは、昨夜のものと───否、これまで幾度かそうされた時と同じく、いつだって優しくて甘い。笑みを消した形の良い唇が動く様を見つめていた凪の前で、静かな低音が偽りなく真実を伝えた。
「俺がこうして甘やかすのは、お前だけだ」
かちり、と心の中でまたひとつ、小さなピースが埋め込まれる。
(私、だけ?)
光秀から紡がれる、彼にしては真っ直ぐ過ぎる言葉を脳内で反芻させた凪の心に、沸き立つような感情が押し寄せた。
本当は、心の何処かで気付いていたのかもしれない。