• テキストサイズ

❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第21章 熱の在処



子供扱いされて苦しかった事も、見えもしない他の女性の影へ陰鬱な心地になっていた事も、光秀に触れられる度、落ち着かない事も、何もかも。自分の心が光秀と過ごす度、ゆっくりと傾いていた事実に気付いていて、素知らぬ振りをしていた。
相手にして貰えない、好きになったところで叶いはしない。そんな感情に苛まれるのが嫌で、ずっと気持ちに蓋をして無意識の内に気付かないようにしていた。

「私だけにしか、しない…?」
「随分と信用がないものだな」

確認するよう、ぽつりと告げたそれへ光秀が短い相槌を落とす。吐息に混じる微かな笑いを含んだ言葉はしかし、凪の疑問を確かに肯定していた。

(そういえば、何だか私、いつも気付いたら光秀さんの為って考えちゃってた)

摂津で迷惑をかけたくないと、自ら清秀の前に進み出た時。
八千相手に情報を訊き出した時。
休むように口うるさく言い募った時。
自分の傍ではよく眠れると言った光秀に添い寝を申し出た時。
いつかの為にと応急手当を習いたいと告げた時。
光秀が進む道を間違っていないと肯定した時。
それ以外にもたくさん、色んな場面で光秀を想っていた。

(ずっと前から光秀さんの事、追い掛けてたんだ)

自然と身体は動いていて、心がそれに追いついていなかっただけの事で、本当はもうずっと前から凪の心はただ一人にしか向けられてはいない。

(……こんなに、光秀さんの事)

心の欠片が埋め込まれる。最後のピースがしっかりと合わさった瞬間、こみ上げた感情が胸の奥を突き上げ、募りに募った想いが形になった。

目尻の端から小さな雫が生み出される。透明な粒は丸みを帯びてゆっくりと大きくなって行き、やがて堪えられない感情が表へと溢れたかの如く、黒々した潤む眸から一筋だけゆっくりと雫が流れた。頬を伝う小さな雫が熱で上気した紅いそこを滑る様を目の当たりにし、光秀が微かに目を瞠る。これまで、凪は一度も光秀の前で泣いた事がない。おそろしい事ばかりが起きる乱世に放り出されて、泣いてもおかしくない状況であっても決して泣く事のなかった凪が、たった一筋だけとはいえ流した涙は、それこそ全ての感情を物語っているようにも感じられる。

/ 903ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp