第21章 熱の在処
「強情を張るなら、口を割りたくなるようにしてやろう」
「…っ、や…!」
耳朶の裏側へあてがわれていた手が、するりと首筋の細い線を辿った。大きな男の手のひらが薄い寝間着の表面を滑る。熱く火照った首筋をなぞる光秀の指先は、普段とは異なりほんのりと暖かい。まるで凪の熱が移ってしまったかのようなそれが、躊躇いなく薄い布の上から鎖骨の線へ触れた。その場所は、昨夜男が唇を這わせ、舌先でなぞった箇所と同じ場所である。余韻を知らしめるかのような指の動きに身を竦め、腕から逃れようとしても光秀の手が緩む事はない。硬く瞼を閉ざした凪の口から小さな拒絶が零れ、好き勝手に翻弄されて苦い思いをするのが嫌になり、ついせり上がった感情を吐き出した。
「好きでもない相手に、こういう事しないで…!!」
勢いのままに発した音を後悔する間もなく、鎖骨辺りに触れていた光秀の片手が優しく凪の顔へ添えられる。やがて近付いた男の端正な面持ち、そこに宿る金色の眸がそっと伏せられ、凪の唇に自らのそれを重ねた。柔らかくしっとりとした唇の感触を堪能するだけの、本当に触れるだけの口付けは一瞬の事で、一体何が起こったのか理解出来なかった凪の目がただ呆然と見開かれる。ゆっくりと離れていった刹那、伏せていた長い睫毛を緩慢に持ち上げた光秀の眸の奥に、じりじりと焦がれるような熱を見た。
「……え、」
無防備に薄く開かれた桜色の唇から、小さな音が落ちる。漆黒の眸を揺らす彼女の頬をひと撫でし、その疑問すら呑み込むようにして光秀が顔を軽く傾け、再び唇を重ねた。
「……ん、っ…ぅ」
軽く唇を食(は)み、角度を変えて啄んだ後、言葉を奪うように舌先を滑り込ませる。怯えて奥で縮こまる凪の舌先を絡め取り、軽く反った彼女の舌裏をねっとりと舐めた。唾液を絡めるようにして尖らせた舌先でそこをくすぐる度、凪の身体がびくびくと小さく跳ねる。突如深まった口付けについて行けず、目を閉ざす彼女の髪を優しく梳き、誘うようにちゅっと濁った水音を響かせて舌を吸い上げた。