第21章 熱の在処
これ以上下手に追い詰められてしまうと、光秀へ本当に勘付かれてしまうかもしれない。そうなれば、光秀の顔をまともに見る事が出来なくなると考えた彼女の唇が僅かにわななく。
(普通に、しなきゃ…いつも通りにしてないと、勘の良い光秀さんに、すぐ気付かれる)
光秀の本当の意図に気付けぬまま、凪はそっと顔を相手の方へ向けた。こんな時、いつも自分は挑むようにして光秀を見ていたんだったな、と他人事のように考えながら、努めた様子で男の目を見つめ返す。
恐恐と視線を合わせた事など、とっくに気付いていた。些か緊張した気配を顔色に滲ませている凪を見やり、光秀は眼を微かに眇める。
凪の黒々とした眸の奥が揺れていた。不安と焦燥が強い色の奥で、微かな灯火がたゆたう。頬へとあてがっていた片手を優しく動かし、慈しむかの如く指先を耳朶の裏側へと滑らせた瞬間────彼女の目の中にある灯火が、じりと焦がれる熱を孕んで弾けた。
(─────……まさか、)
音も無く胸中で息を呑んだと同時、命の鼓動が大きく跳ねて内側から己の胸を叩く。一際大きな鼓動の後、少しずつ速度を上げて行く脈動が、冷たい光秀の指先に熱を灯した。
凪の眸には、光秀が日頃奥に隠していた熱と同じものが潜んでいる。見紛う筈がなかった。何故なら光秀はいつもこうして、彼女の目を見ていたのだから。そうしてずっと、彼女の微細な変化をその双眼で見つめ続けていたのだから。
きっかけなどどうでもいい。その熱と灯火を凪の中に見つけてしまった以上、逃してやれはしない。躊躇いはしない、と戦の後、凪の身体を抱き締めながら囁いた通り、もう戻れないところまで自分は既に、彼女によって深く深く落とされてしまっている。
「それで、先程言いかけた言葉の続きは何だ」
「つ、続き!?……それは、あの…」
先程の続きとは、凪が言いかけて先を呑み込んだ【だって】の事だろう。ここに来てそれを掘り返されるなどとは思わず、彼女が視線を彷徨わせた。自分だけに優しい訳じゃないでしょ、などとそんな事を言ってしまえば、まるでそうして欲しいとねだっているように聞こえてしまう。そんな事、言える筈がない。