第21章 熱の在処
しかも恥ずかしいのは当然として、そんな距離感が嫌ではなく、何となく少し嬉しいと感じてしまう辺り、相当質(たち)が悪い。
「出先から戻って以来、随分とご機嫌斜めだな」
「ご機嫌斜めとか、そういうのじゃないです…」
「頬袋を膨らませるのはまだ早いぞ」
「そんな一気に詰め込みませんから」
くすくすと涼やかな笑いを溢した光秀が、些かむくれた風な凪の柔らかく紅い頬を指先で悪戯につん、と突付いた。戯れのように触れられ、ぐっと眉根を寄せた彼女の眉間を親指の腹で撫でた後、光秀は粥をよそった暖かい椀を凪の両手に持たせる。片手は彼女の肩を支えるのに使っている為、空いているのが右手のみだからだろう。匙で一口分の粥をすくい、白い湯気の立つそれを口元へ運び、息を吹きかけて軽く冷ました後、凪の唇へ近付けた。
「ほら、口を開けろ」
「ちょ、あの、自分で食べ…んぅ…っ!!?」
椀を持たされた時点でよもやまさか、と思ったがまさか本当に手ずから食べさせる気だったとは。柔らかくも、何処か意地の悪い調子で紡がれた短い言葉に慌てた凪が反論を発しようとした刹那、隙を逃さず匙がそっと差し入れられた。
仕方なく匙から粥を食べれば、舌先にほんのりとした塩と溶き卵の風味、丁寧に解された梅の味がアクセントになっていて小ざっぱりとした感じが美味しい。光忠の新たな一面を発見した心地で呑み込んだ凪を見て、光秀は仄かに愉しげな様子を覗かせ、そっと口元を綻ばせた。
「美味いか」
「…美味しい、です。でもあの、ご飯くらい自分で……っ、ん…」
金色の眸がそっと眇められる。問われた言葉へは素直に頷いた凪だったが、匙を取るくらいは出来ると主張したところで、再び粥をすくった匙が運ばれた。適度な量がすくわれているそれは、冷めきらない程度に冷まされている。とてつもなく甘やかされている心地になった凪は、呑み込んだ後で傍に居る光秀をじっと物言いたげに見上げた。
「光秀さん、私自分で食べられます」
「つれない事を言うな。こうしてお前の世話を焼くのは、なかなかに楽しい」
「どういう意味……」