• テキストサイズ

❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第21章 熱の在処



ともあれ、盆に乗せられて運ばれた粥は一人分用の土鍋の中で湯気を立てており、それ以外に取皿用の椀と匙が添えられている辺り、彼の妙に几帳面な側面が垣間見えていた。
熱の所為か、あるいはなかなか追いつかない心の所為か、あまり食欲自体が無かった凪だったが、褥の傍に置かれた湯気の立つ粥を見ている内に食欲が刺激され、何となく空腹感を覚える。いっそお腹いっぱい食べて、気持ちを晴らそうと考えた凪が緩慢に身を起こせば、傍に居た光秀がそっと寄り添うようにして背を支えてくれた。
少し前よりも若干落ち着いた熱は、それでも相変わらず高いままであり、くらりと傾きかけた身体を支えてくれた事は正直助かったが、いかんせん光秀との距離が近く、今の凪にとってはとてつもなく大問題であったのは、言うまでもない。

「あの、光秀さん…」
「どうした」
「え、いや…どうしたじゃなくて」
「先に白湯が欲しかったか。では注いでやろう」
「白湯も欲しいですけど、そうじゃなくてですね…!?」

物言いたげな凪の視線を受け、光秀がさらりと問いかける。間近にある男の端正な面持ちと、そこに宿る金色の眼に見つめられ、凪はつい視線を明後日の方向へ向けつつ、微妙に言い淀んだ。仮にも熱があって色んな意味で弱っているというのに、この男、意図的か無意識か、心臓を直接的に攻撃して来る。片手で華奢な身体を支え、白湯へ手を伸ばそうとする光秀を言葉で咄嗟に制した凪は、どう考えても少しばかりおかしい体勢につい文句を零した。

上半身を起こし、褥に座した体勢の凪の身体は、そのすぐ傍で胡座をかいている光秀の胸へ身体を凭れさせられて居る。片手で、寝間着に包まれたなだらかな肩を掴んで抱き寄せ、しっかりと硬い胸板で凪の身体を支えた光秀は、何食わぬ様子で彼女を見下ろした。胸に凭れている所為で光秀が軽く俯けば顔と顔の距離がぐっと近くなる、そのとんでもなく羞恥を誘う状態に、凪の鼓動が異様に騒ぐ。

(人が必死に落ち着こうとしてるのに、何でまたドキドキさせるような体勢するかなこの人…!!!)

文句のひとつやふたつ言いたくなるのも道理である。

/ 903ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp