第21章 熱の在処
本当は光秀に、昨夜の言葉の意味を問いたかった。しかし自分の気持ちすら明確に定まっていないにも関わらず、相手にだけ答えを求めるのは如何なものかとも思ったし、何より凪が至った結論通り、本当にただの戯れのようなものだと、いつものように涼やかに言われてしまったら────そう考えると、怖くて訊く事が出来ない。
(自分でも言ってたじゃない。……私みたいな色気も何もない小娘、大人な光秀さんが相手にする訳ないって)
だから、昨夜の事は忘れてしまおう。一夜の中で、熱に浮かされるままに交わした幻として、そっと閉じ込めておけばいい。幸いにも、光秀には凪が昨夜の一件を現実として捉えているとは知られていない。真実を知る前の、夢として認識していたという形に収めてしまえば何ら問題はない筈だ。
心の中で色々と必死に整理を付けた凪は、意を決した様子で握り締めていた拳を開く。何かを見つけた代わりに、何か大切なものを手のひらから溢してしまったような感覚に陥りながら、小さく呼吸を漏らす。
(────…何か、心臓、痛いな)
その痛みが何を示しているのか見て見ぬ振りをして、凪は平静を装い、元の体勢へと戻ろうと小さく身じろぎした。
一方、凪へ突如背を向けられた光秀は、果たして己の居ぬ間に何事かがあったのかと勘繰り、顔を僅か後方へ向けると金色の眼を光忠へ流した。
「何かあったのか、光忠」
ただ一言、簡潔に問うて来た主君の視線を真っ向から受け止め、光忠は完全なるとばっちりを受けて内心吐息を零す。要するにこれは、完璧に凪と光秀の言葉不足、及び確認不足である。だが、人の色恋沙汰にあれこれ口出しするのも無粋かと考えた男は、動揺の一切を見せない状態で口元へそっと笑みを浮かべて応える。
「…さて、私には皆目見当も付きませぬ」
「ほう?では理由もなくこの娘は褥で鞠のように転がったという事か」
「その女の思考など、私には理解も及びませぬ。まあ理解したくもありませんが」
(ひどっ!!!)