第21章 熱の在処
心配してくれている相手に、失礼な態度を取るべきではない。そう分かっていても、簡単に心は納得して平静を取り戻す事が出来ないでいる。褥の中で背を向けた体勢を保ち、ぎゅ、と身を丸めた。油断すると、夢ではないとはっきり否定された昨夜の光景が鮮明に蘇って来る。
(……だって、私、全然嫌じゃなかった)
光秀に自ら口付けし、相手からも触れられたあの夜が夢まぼろしでないと分かっても尚、凪の中に嫌悪感が湧く事はない。それがいっそう彼女の中の焦燥や疑問を掻き立てる。清秀の時も、政宗に戯れで軽く口付けられた時も、即座に手が出る程の衝動が走ったというのに、光秀にはそれが微塵もなかったのだ。
(光秀さんの事、全然嫌いじゃないけど、そういう意味だったって事?……じゃあ何で光秀さんは、今朝何も言わなかったんだろ、私が忘れてても本当に愛してるって言ってくれたなら、普通は)
熱に浮かされた思考の中、口付けの合間に耳にした【愛してる】の言葉は、決して戯れのようには聞こえなかったというのに。何故か光秀は昨夜の出来事を夢だと思っている自分に対し、訂正も何も告げては来なかった。自分の感情も、光秀が発した言葉の真意も分からず、ぐるぐると混迷を極めた凪の思考が様々な可能性を生み出し始める。
(光秀さんは絶対モテるだろうし、女の人からだって手紙貰ってたし…もしかして、大人の遊び的な…所謂リップサービス…?)
恋愛のいろはに慣れている大人の男ならば、そういうものもあるかもしれない。一夜の戯れの如く、自分から口付けてしまった凪に恥をかかせぬよう、気遣って光秀がそうしてくれたのだとしたら。そこまで考えた凪は、赤かった顔を一転させて青くし、ひやりとした指先の感覚を押しやるよう、手をぐっと握り締める。
(……私、凄い失礼な態度取ってる。今だってお仕事忙しいのに具合悪いの、面倒見て貰ってるのに)