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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第21章 熱の在処



主君である光秀へ凪の傍───枕元を譲り、後方へ控えるよう下がった光忠と入れ替わり、男が畳の上へ座する。瞼を閉ざしている状態の凪を見て微かに眉根を寄せ、片手を頬へ触れさせれば、その感触で彼女の伏せられた長く黒い睫毛が震えた。

「……ん、」

小さな声を漏らし、凪の瞼がゆっくりと重々しく持ち上げられる。幾度か瞬きを繰り返した後、霞んだ視界に光秀の姿を映した凪は、覚醒後でぼんやりした意識の中、掠れた声で言葉を零した。

「………みつひで、さん」
「すまない、起こしてしまったか」
「大丈夫、です」

無防備な声に名を呼ばれた光秀が、片手をあてがった頬をひと撫でしてから手を離す。耳に馴染む静かな調子に応えた凪が、一度瞼を緩慢に下ろした後、突如それをばちりと見開いた。

「み!?光秀さん…!!?」
「…どうした。大層な驚きようだな」
「な、何でもないです…!いつ帰って来たんですか…!?」
「今しがただ」

起き上がらんばかりの勢いで改めて光秀を見た凪は、ぼんやりしていた意識が一気に覚醒したような心地になり、熱の気怠さや頭痛を吹っ飛ばしてあまりある程の衝動で、くるりと仰向けの状態から光秀へ背を向けた体勢になる。若干裏返っていた声と、起き抜けの態度とのギャップに内心目を瞠りつつ、よく分からない反応をする凪へ、光秀の眼差しが怪訝な色を帯びながら向けられた。

(態度があからさま過ぎだ、莫迦者)

おおよそ予想出来ていた展開が目の前で巻き起こる様に、若干呆れた眼を向けていた光忠は内心で小さく毒づく。あんな態度では、光秀に何かあった、と察してくれと言っているようなものである。
凪は光秀に背を向けた状態で顔を赤らめ、動転していた。心の準備をする間もなく戻って来てしまった光秀の顔を、まともな心地で見る事が出来ない。

(ど、どうしよ…どういう顔すれば!?変な態度取ってたら絶対勘繰られるし…でも…っ)

忙しくなく暴れる鼓動の音が外に漏れ聞こえてしまうのではないか。そんな錯覚すら抱かせてしまう程、凪はこれまでにないくらい、光秀を意識してしまっていた。

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