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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第21章 熱の在処



九兵衛のそれを耳にし、光秀の眼差しが微かな険を帯びた。切れ長の双眼を仄かに眇めた男が笑みも浮かべずに居る様を見て取り、部下は先を紡ぐ。

「元々城下に他国の間者が多く紛れているなど、そう珍しい事ではありませんが、町中を張っている黒脛巾組(くろはばきぐみ)の報せによれば、ここ数日の間で数が一気に増えたらしいとの事」
「政宗が持つ忍衆か。潜入の手練れとされる忍の報告ならば、おおよそ間違いではないだろう」
「そのようです。しかしながら、敵もなかなかの手練れらしく、未だ何処の筋からかは見当がついていないとの事でした」
「……ほう?黒脛巾組を相手取りながら、尻尾を掴ませないとはな」

静かに語られる報告へ、実に興味深そうな様を覗かせた光秀の眸が剣呑に光った。家屋の壁に背をゆるりと預けた男は静かに腕を組み、視線を伏せ気味にしながら思案を巡らせる。

政宗は摂津から戻った折の軍議の際、北の龍虎───即ち上杉謙信と武田信玄の動向を探る旨を信長より一任されていた。元々上杉と武田は優秀な忍衆を有している為、それに対抗してあてられたのが、黒脛巾組と呼ばれる忍衆を持つ政宗という訳である。政宗は上杉武田の動向を探る為、すぐさま安土城に自身が所有する忍衆を呼び寄せ、各所へ配置した。彼らは商人や山伏、町人に扮して城下町に馴染み、情報収集や見張りの役目を担っており、他国からの斥候や忍の影を見張っている。
その彼らの報せならば、疑うべくもない確かな筋の情報だろう。そしてそんな忍衆を上手くやり過ごしているという事は、敵方の忍もかなりの手練れという事になる。

「忍衆と言えば、紀伊の傭兵集団雑賀(さいか)衆、安芸毛利家の座頭(ざとう)衆、越後上杉家の軒猿…そして────元、甲斐武田の三ツ者」
「……名を連ねると恐ろしい者達ばかりですね」

淡々と抑揚無く言い切った光秀の語調は乱れひとつない。それどころか、何処か確信めいてすらいる調子に疑問を持ち、九兵衛は微かに顔を顰めつつも窺うように主君を見た。部下の言う通り、各国の有力な武家はそれぞれ、己の力を確立させる為に様々な能力を持つ者を抱え込んでいる。それ等の内のひとつでもこの安土に紛れていると考えれば、なかなかに末恐ろしい。

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