第21章 熱の在処
「……つまり、量産にはそれなりの刻が必要という事だな」
「へえ、種子島の時は部品の型取りも手元にあるものや、信長様がご用意して下さったもので何とか出来たんですが、今回のはちぃと変わりものでして…」
先日小国軍から押収した南蛮筒は全部で百丁弱。戦で一小隊が装備するにしても、数が足りない。無論、全てを種子島から持ち替えさせようと考えている訳ではないが、先込め式のものは第二射に移る時の手間も幾分少ない為、精鋭に持たせて機動を上げるにはもってこいの代物だ。実際に試し撃ちしていない為、威力の程は分からないが、南蛮製という事はそれなりの力を秘めているのだろうと予測は出来る。
「その部品がねえと、なかなか工程に移れねえってのが現状です。それと、仮に量産が出来ても一番問題になるのが」
「火薬か」
「さすがは明智様、仰る通りで」
光秀が先日御殿へ持ち帰ったものも、念の為銃弾は抜かれているが、押収したものも万が一を考慮して全て銃弾を抜き取らせてある。それ等と、戦ですり替え、持ち帰ったものを合わせて考えても弾の数は当然足りない。しかし、種子島とは異なった仕様の弾薬は製造が難儀だというのが、職人の現在の見解だ。
摂津国、有崎城下で凪が感じる程に強い火薬の臭いを放っていたという事は、例の蔵内には相当の火薬が積まれていたのだろう。それは即ち、国内製造の難しさを逆に物語っていたようなものだ。当時から可能性を考慮していた光秀は、職人が頷く様を視界に入れながら片手を顎へあてがう。
「そうなると同じように戦で押収するか、あるいは取り引きをしなければならないという事になるか」
「へえ、俺の職人仲間で南蛮筒を扱ってる奴が居るんですが、そいつがよく堺で試作品の材料を仕入れてるって話なら聞いた事がありやす。火薬までどうにかなるかはわかりやせんが…」
「…堺か、確かに足を運ぶ価値はある。お前は引き続き構造の研究に努めろ。最低限、扱いを知らなければ宝の持ち腐れだ。……あれを宝と呼べるかは、分からないがな」