第21章 熱の在処
(しかも光秀さんあの時、あ…)
「愛してるって何!?好き通り越して、突然愛してる!?」
「……心の声が外に漏れているぞ」
切っ掛けを作ったのは明らかに自分だ。昨夜の自分がやらかした事を反芻した凪は、湧き上がったどうしようもない衝動をやり過ごすよう、勢い良く上掛けの着物をばさりと抱き締める。適当に丸めた着物にぐりぐりと顔を押し付けている間、光忠から静かな突っ込みを受けると、今度は忙しなく着物を離して身を乗り出し、前のめりになりながら片手で光忠の羽織りの袖をきゅっと掴んだ。
「み、光忠さん!どうしよう…!?」
切羽詰まった凪の声を耳にし、呆れた様子で瞼を閉ざしていた光忠が緩慢に眸を覗かせると、掴まれている袖へ視線を向ける。そのまま腕を辿って凪の表情を目にした瞬間、男は微かに息を呑んだ。心底困窮した様子で眉尻を情けなく下げ、真っ赤な顔で羞恥から目を潤ませる凪は、どうにも隙があり過ぎて可愛い。
(………は?可愛い、だと?)
「あの、光忠さんまだ帰りませんよね!?昨日のが全部夢じゃないってなったら私、もう光秀さんの顔、恥ずかしすぎて見れない!無理…!!」
「おい…落ち着け莫迦者。私とていつまでも御用もなく主の御殿に留まれる訳がなかろう」
「普段からふてぶてしいんだから、用事なんか無くても居座れますよ…!」
「お前、私をどんな無礼者だと思っている…」
「主の部屋、勝手に入って来たじゃないですか…!普通に考えたら結構な無礼者ですよ!」
無礼者云々は凪の方が正論だが、光忠とて光秀の性格を熟知している以上、長くは留まれない事など分かり切っていた。光秀が戻ってくれば、後は自分で面倒を見ると言い、下がっていいぞと言われる事、間違いなしである。
凪のそれをお願いと呼んでいいのかは些か疑問だが、とにかく光秀に対して見せた事がない滅茶苦茶な言い分を主張する姿が、何故か異様に可愛く見えてしまった光忠は、己の目がとうとう可笑しくなったのかと片手で目頭を押さえた。そのままの状態でちらりと視線を流せば、未だに凪が袖を掴み、じっとこちらを物言いたげに見つめている。