第21章 熱の在処
「────…お前、昨夜の事を覚えていないのか?」
「さ、昨夜って言っても、私気付いたら寝ちゃってて…」
光忠の問いかけにおずおずと顔を上げ、凪は着物を抱き寄せた体勢でおぼろげな最後の記憶を引っ張り出そうとした。本当にいつ眠ったのかは分からない。眠っている間、とんでもなく不埒な夢を見ただけの事で、その内容を光忠に見透かされている訳でもないというのに。
(な、なんで光忠さん、わざわざそんな事訊くの…?だって、本当に昨日は私…)
凪の中に、小さな違和感が顔を覗かせた。光忠の物言いと態度、彼がしていた勘違い、すべてがおかしい。どくん、どくん、と何かを本能が察知しているかの如く、凪の鼓動が脈動を忙しなくし始める。無意識の内に着物を握り締めている指先へ力を込め、濡れた眸を揺らした彼女の逃げ場をまるで奪うかのように、やがて光忠が告げた。
「私が、夜に部屋を訪れた事も覚えていないのか。あの時、確かにお前と────目が合ったというのに」
────……光秀様、光忠です。お休み中のところ申し訳ございません。
脳裏に蘇ったのは、口付けの合間に部屋へやって来た光忠の姿と、その彼と目が合った途端、深く激しく蹂躙された口内の生暖かく、強引な舌先の愛撫だった。
「あ、あれ……夢、じゃ…」
「……頭が残念だとは思っていたが、よもやここまでとは。昨夜の事は夢ではなく現(うつつ)だ」
「!!!?」
溜息と共に言い切られ、凪が光忠の方へ顔を向けながら零れんばかりに眼を見開く。もうこれ以上赤くなれないのではないかと言わんばかりに上気した顔は、今や熱ではなく湧き上がる様々な羞恥によりもたらされたものだ。
「う、嘘…じゃあ、あれ全部…現実…!?」
「私に訊くな。お前が一番分かっている事だろう」
再度確認するよう光忠へ問えば、突き放すような言葉が返って来る。確かに妙な夢だとは思っていた。リアル過ぎるし、あまりにも生々し過ぎる。そして、色々と鮮明に覚えてい過ぎた。
(ちょっと待って!という事は私、あんな…自分から、舌…)
「入れるなんて、積極的過ぎでしょ…!!」