第21章 熱の在処
幾度か目を瞬かせた後、怪訝な様を僅かに覗かせ、彼女は光忠を見た。
「あの、情を交わすって…何ですか?」
「………は?」
本日三度目となる素の反応を返してしまった光忠は、虚を衝かれた、というよりも、いっそ凪と同じく怪訝を極めた面持ちで柳眉を顰め、凪の常識の無さを突っ込めばいいのか何なのか分からないまま目を眇める。
「光秀様に抱かれたのだろう、と言っている」
「だ……っ!!?」
すっぱりきっぱり歯に衣着せぬ物言いをした男を前に、凪はインパクトのある一音だけを発した後、表情を凍りつかせて絶句した。紅い顔のままで目を見開き、わなわなと唇を微かに震わせた彼女はしばらくそんな状態で静止し、そうしてしばし無言を貫いた後、突如電源が入った機械の如く動き出す。上掛けの着物をばさりと両手で掴んで自らの方へ引き寄せ、可哀想な程に耳や首筋まで赤くした凪は、手繰った着物を胸に抱き込むようにして顔を覆った。艷やかな黒髪の隙間から覗く真っ赤な耳がやけに印象的に見え、光忠は想像だにしなかった相手の反応にただ目を見開く。
「だ、だ…抱かれ…、光秀さんにそんな…抱かれるとか、そういうやらしい事、してない…!してないです!!ばか…っ!!」
「…馬鹿とはなんだ。あれだけ人前で見せつけておきながら、よもや何も無かったというのか」
恥ずかしさで切羽詰まったらしい凪の口から飛び出した単語は、どうしてか無性に光忠の心の奥をくすぐった。ぎゅっ、と心臓の奥を握られたような感覚に陥りつつ、目の前でパニックになっている凪へ問い詰める。光忠が口にしたそれは誤った表現などではない。現に、光忠は昨夜思い切り光秀に見せつけられ、言外に牽制されたのだから。
いまいち会話が噛み合っていない事に違和感を覚え、その意図を探るよう思案を巡らせた男は、いまだに顔を伏せている凪を見つめた。彼女が嘘をついているようには思えない。ならば、この噛み合わない感じは一体何だ。様々な可能性を推測したのち、とある結論に辿り着いた男が、そっと確認の意図をもって問いかける。