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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第21章 熱の在処



光忠は伸ばしかけて一度は止めた手を、無言のままに動かした。ひんやりとした片手が凪の額に触れた事により、彼女の内側にこもる熱の高さを感じ、男は眉根を微かに寄せる。皮膚と皮膚が触れ合った箇所は、溶けてしまいそうな程に熱かった。光秀が凪の身を案じるのも分かる。この時代、高熱で命を落とす者も珍しくはないのだ。

凪、とその名を呼ぼうとして不意に口を噤む。今の凪は光忠を光秀だと勘違いしている状態だ。もし光秀ではなく、自分だと気付いてしまえば、彼女は果たしてどのような態度に変わるのだろうか。何故そんな事を咄嗟に考えてしまったのか、その理由が分からない状態で額に触れた手を離す事が出来ず逡巡していれば、手のひらの冷たい温度に心地よさを覚えたらしい凪の口元がほんのりと綻んだ。

「光秀さんの手、冷たくて気持ちいい」

瞼を伏せつつ、柔らかい声色で発せられた穏やかな一言が、光忠の中で形の分からない感情を波立たせる。自分は光秀ではない、と何故か彼女に知らしめてやりたくなった。

「残念だが、私はあの御方ではないぞ」
「………え?」

抑揚なく、平淡とした調子で告げた言葉を耳にした瞬間、凪の唇からほんの僅かな間と、意表を突かれたかのような小さな音が零れる。熱の気怠さを隠しもしない重そうな瞼が勢い良く持ち上がり、潤みを帯びた黒い眼が自身の方へ向けられた瞬間、光忠はどうしてか、異様に満ち足りた心地を覚えた。

「みつ、たださん?」
「ああ。光秀様ではなくてすまないな」

混乱も露わな状態の凪を見つめ、光忠がいつもの嫌味を含んだ笑みを浮かべる。切れ長の眼を眇めた男がまったく悪びれた風を見せずに言い切れば、ようやく事の次第を正しく認識したらしい凪が勢い良く上体を起こした。

「げ…!み、みみ…光忠さん!?」
「げ、とは何だ、げ、とは。…いやはや、実に典型的な驚きようだ。なかなか愉快な様ではあるが、急に身を起こすと頭が更に悪くなるやもしれん。大人しくしていろ」

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