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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第21章 熱の在処



紡がれた礼は真摯なもので、飄々として腹の底を覗かせない目の前の男が、それだけ凪を密やかに案じていたのだと思い知り、家康は何とも言い難い心地を覚える。

「…別に、改まって言われる事じゃないです。というか、お邪魔した時からずっと思ってたんですけど、ここ本当に凪の部屋なんですか?」
「ああ」
「…………」

光秀が礼の言えない人間だとはそもそも思っていないが、素直に言われ過ぎても妙な感覚に陥ってしまう。故に、家康は家臣に案内された時から延々と抱いていた疑問を解消するべく、問いかけた。しかし、それすら躊躇いなくあっさりと肯定されてしまっては二の句が紡げない。黙り込んだ家康を見て、大体皆そういう反応になるよね、と内心で苦笑した凪が家康の真顔を見つめていた。

「……はあ、もう何処から突っ込んでいいのか分からないんですけど。あんた達一体どんな関係なんですか」
「家主兼護衛と、護衛対象だよ」
「凪はちょっと黙ってて」

怪訝に眉根を寄せ、あからさまな溜息を漏らした家康の質問に、凪がいつも通りの調子で答える。普通の護衛対象は護衛と続き部屋で生活までしない、という突っ込みが果たして凪に通じるのかはさておき、光秀からの返答を耳にする為、翡翠の眼を男へ向けた。とはいえ、光秀が問いかけに対してきちんと答えるなど稀な事なので、然程期待していなかったが、家康の思考に反し、男は口元に笑みを浮かべてそっと音を乗せる。

「ああ。凪の言う通り、今は家主兼護衛の立場だ」
「……そうですか」

光秀が言葉にしたその意味を、理解出来ない家康ではない。あくまでも眉根をひくりとも動かす事なく、淡々と相槌を打った家康は視線を凪へ向けた。
そっと両膝を擦る形で彼女の枕元に近付き、指先を伸ばす。前髪を軽く払った後で熱を測るよう額に手のひらを置いた家康が、そこから伝わる熱さに瞼を緩慢に伏せた。やがてゆっくりと額から赤く滑らかな頬へ手を移動させた後、片手で包み込むようにする。

「……あんたがこんなだと、調子が狂う。早く元気になりなよ」

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