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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第21章 熱の在処



「…知恵熱とは、赤子が知恵を付け始めた頃、急に発熱する症状の事を指すと記憶していた筈だが」

起き抜けよりも上がってしまったらしい熱に浅い呼吸をする凪へ、ちらりと視線を流した光秀が淡々と問いかけた。傍らに置いた医薬箱から幾つか薬を取り出しつつ、家康が半眼を凪へ向ける。

「本来の意味は光秀さんの言う通りですけど、似た症状なのでそう表現させて貰いました。つまり、極度の疲労と心労で身体が悲鳴を上げて発熱しただけです」
「風邪とは違うのか」
「少し違います。喉の腫れも咳も、呼吸の乱れもない。頭痛は熱の高さから来るものでしょう。本当にただ熱だけがある状態です。だからまあ、知恵熱と呼ぶしかありません」

(え、それ赤ちゃんと一緒って事!?滅茶苦茶恥ずかしいんだけど…!)

確認の為に問いかけた光秀に対し、家康はあくまでも冷静に説明を続けた。まあ風邪でないならば伝染る心配もないし、光秀に迷惑をかける事もない、と前向きに考える事も出来るが、何だか知恵熱を言い切られてしまうと気恥ずかしいものがある。
熱が上がった所為でくらくらする思考の中、迷惑をかけた申し訳なさと気恥ずかしさ故に、凪は上掛けの着物を軽く上げて顔を半分程隠した。

「…病でないならそれでいい。つまり、大人しく身体を休めていれば良くなるという事だろう」
「そうですね。…まあ初陣後に極度の緊張から体調を崩す兵も少なくはないし、雨の中であれだけ動き回ってれば疲労も溜まる。今日は一日大人しく休んでなよ」
「……うん。ごめんね、家康。わざわざ来てくれてありがとう」

光秀の言葉は本心である。大病だとは端からあまり考えていなかったが、ただの疲労から来たものだというのなら、ゆっくりと身体を休めていれば回復する。言葉の端に安堵が滲む男のそれへ同意を示し、家康が凪の内心を気遣いつつ告げた。
薬包に包まれた薬を数種類取り出して畳の上に置いていた家康を眺め、凪がぽつりと謝罪と感謝を述べる。それを耳にしたと同時、振り返って彼女を目にした家康は僅かに眉根を寄せて顔を背けた。

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