第21章 熱の在処
綺麗に整えられた褥の横に正座し、光秀が意地悪く笑う。微かに眇められた金色の目にからかいの色を見て、凪が不服そうに眉根を寄せた。
「………というか光秀さん、あの…枕の位置とかお布団の向き、いつもと違いません?」
「…ん?」
相手にわざわざ褥を替えて貰ったのだから、一瞬突っ込む事を躊躇いはしたのだが、やはり気になるものは気になる。光秀が敷き直した褥は、凪の指摘通り普段とは逆であり、文机側に枕が来る形になっていた。遠慮がちに確認した凪を他所に、光秀はまったく意に介した様子もなく、短い相槌を打つ。
「気にするな。この方が色々と都合が良い」
「どんな都合!?」
半ば反射的に突っ込んだ凪は悪くない。突拍子もない事を光秀が言うのは割といつもだが、都合とは何だ。色々と疑問があるのだろう凪の複雑そうな表情は敢えて無視した光秀は、ふと改めて彼女を見る。褥を替える前まで、横向きに転がっていた所為で髪が乱れていた。それに気付いた男は綺麗に敷き直した褥の上、自身が膝をついているその傍をとん、と指先で軽く叩く。
「おいで、凪」
「……はい?」
畳の上に移動していた彼女は、光秀に短く呼ばれて首を傾げた。敷き直したからここに座れ、といった意味合いだと受け取った凪が抵抗なく光秀の示した位置に正座すれば、正面から向き合う形となった男がくつりと喉の奥で小さく笑う。
「寝癖がついているぞ」
「え!?…あ、さっき勢いよく寝転がっちゃったから…っ」
「梳いてやろう」
異性の前で髪がぐしゃぐしゃなのは、さすがに恥ずかしい。口元を綻ばせた光秀の低くしっとりとした声が鼓膜を揺らし、凪の目元が赤らんだ。慌てて自分の手で整えようと腕を持ち上げるよりも早く、光秀の大きな手のひらが彼女の側頭部へと添えられる。長くしなやかな指先が、傷まないよう気遣いつつ凪の漆黒の髪へ差し入れられた。絡んだ箇所を優しく解き、ゆっくりと梳き落とした手の感触に、凪が微かに目を瞠る。