第21章 熱の在処
(沈黙が痛い!!)
思わず無言になり、憮然どころか無表情になった光秀に対し、凪は相手の姿こそ見えていないものの、背中に注がれる冷たい沈黙や眼差しを受けて、あまりの居た堪れなさにますます身をぎゅっと縮めた。
一方、光秀は内心でやはりか、と小さな嘆息と共に言葉を零す。今朝方、起床時に凪の不調を知ったと同時、もしやと可能性を過ぎらせたのは、前回(第一弾)の経験もあっての事である。確かに今更ながら思い返せば、昨日の凪は少し素直過ぎたような気もした。それはそれで愛らしい、とつい愛でてしまったが、熱の高さと戦の疲労、酒も手伝い、ああなったと今になって考えれば納得の行く状況で、凪が正しく昨夜の記憶を持っている可能性は五分といったところだろう。
(加えて覚えていたのなら、起きた時の対応も多少なり変わっていただろうからな)
凪ならば幾ら体調不良といえど、覚えているのなら普通の反応ではいられまい。予想出来ていた事ではあるが、忘れられたというのは、それはそれで若干複雑な心地もある。よって、光秀は敢えてしばし沈黙の道を選んだ。背を向けている状態の凪を見つめ、仄かな悪戯心で光秀はそっと瞼を伏せる。
「…さあ、どうだろうな」
「え」
何となく覚えのある展開に、凪の肩が小さく跳ねた。確か、宴の翌日に記憶を飛ばして似たようなやり取りをした記憶がある。地味に気まずいながらも凪は意を決して再び問いを重ねた。
「……それって、私に覚えがなければきっとそうだろう的なアレですか?」
「まあ、あながち間違いではない。…どうした、何か覚えがあるのか?」
「な、ないです!」
「そうか。気が済んだなら一度褥から退いていろ。替えを運ばせてある」
もはや謎掛けのような問答の後、凪は結局何も寝言などは言っていない、といった結論に行き着いたらしい。真実か否かは分からないが、もう恥ずかしいのでそういう認識にしたという訳だ。光秀も寝言云々については深く問い詰める事もなく、転がった状態の凪を褥から軽く追い払う。
着替えている間に家臣へ声をかけたのだろう。新しい褥が光秀の部屋に置かれており、ゆっくり身を起こした凪は言われた通り褥から退いた。