第21章 熱の在処
やはり本調子ではないのか、少し動いただけでそこそこの体力を持って行かれるような感覚に息を漏らし、帯を締め終えた後でそのまま褥の上にとさりと座り込む。それと同時、不意に脳裏を過ぎった記憶に、凪は微かに目を瞬かせた。
(………あれ、そういえば私、昨日いつ寝たんだろ)
必死に思い出そうとするも、どう考えても眠った時の記憶がない。それどころか、前後の記憶も何となくぼんやりと霞がかって曖昧な気がした。
(女の人からの手紙を拾って、しばらくしたら光秀さんが帰って来て…一緒にお酒呑んで……それからお仕置きスタイルになって…、亡霊さんの事を話して…それで)
よくよく思い返してみると、湯浴みを終えてから妙にふわふわした心地だった気がする。縁側の板間に寝転がった時も、心地よさに意識が一瞬持って行かれそうになった。それはただ気温と湯浴み後の体温上昇の所為だと思っていたのだが、もしかしたらその時からずっと自分は体調不良だったのだろうか。
(なのに気付かないでお酒普通に呑んじゃうとか…馬鹿だ私……だからあんな夢……あんな、夢?)
そこまで考え至った瞬間、凪は突如として鮮明に蘇った【夢】の内容に顔をとんでもなく上気させ、既に熱が高くていっぱいいっぱいであった脳のキャパを越えた衝撃でぱたりと褥に身を丸めて倒れ込んだ。顔から火が出る、という比喩表現を自分自身が使う事になるなど、人生まったく何が起こるか分からない。黒々した眸を目一杯見開き、熱の所為で微かに潤んだそれをゆらゆらと揺らした凪は、次々に脳裏を駆け巡るあれやこれやに、呼吸出来ない程息を詰まらせた。
(頭がぼーっとして起き抜けにはすっかり忘れてたけど、私…とんでもない夢第二弾見たんだった…!!)
襖の方に背を向けた形で倒れ込み、膝を抱えるようにして丸まった状態の凪は、第一弾と同様やたらリアルで生々し過ぎる夢の内容を思い出し、羞恥心に顔を両手で覆う。元々熱で紅い顔が更に真っ赤に染まり、耳朶や首元までもを上気させた状態で身を震わせた。
(…え、ていうか何でまた相手が光秀さん!?確かに最近光秀さんの事ちょっと気になるような気もしなくもないけど…いや、でも何で光秀さん!?)