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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第21章 熱の在処



自分自身に仄かな怒りを覚えつつ、険しい面持ちのままで凪の前髪をそっとかき上げた。高い熱の所為で汗の滲むそこに、ひたりと己の冷たい手のひらを置けば、苦しげに眠っている凪の表情がほんの少しだけ和らいだ。

(俺の手が冷たい所為か。これだけ熱ければ、さぞ寝苦しいだろう)

ひんやりとして冷たい光秀の手であっても、あてがっている凪の額の熱が移り、手のひらの温度を少しずつ上昇させていく。触れている箇所から片手を離し、褥の乱れを軽く直してやった後、寝乱れた彼女の髪を優しく整えた。

(下手な医者に凪を診せる訳にはいかない。家康の御殿へ遣いを出すか)

思案を巡らせ、僅かに眼を眇める。やがて音もなく立ち上がった光秀は、凪を起こさぬよう気遣いつつ、庭に面した窓だけを開けてそのまま一度彼女の部屋を後にした。


─────────────…


ぼんやりとした意識の中、ゆるゆると力なく瞼を持ち上げた凪は最初に映り込んだものがいつもの御殿の天井である事を確認し、改めて戦から戻ったのだという事実を実感する。頭がくらくらして鈍い痛みを訴える中、気怠い身体を緩慢に起こした拍子、ぱさりと何かが上掛けの着物の上に落ちた事に気付いた。

「……あれ?」
「ようやくお目覚めか、寝坊助」

双眸を瞬かせたと同時に疑問の声が零れ、そこへ被せられるかの如く、耳に馴染んだ声が届く。顔を緩慢に上げれば、何故か光秀が凪の文机の前に腰掛け、書簡に筆を入れている最中であった。顔をこちらへと向けたまま、微かに口元へ笑みを浮かべた男の姿をしばらく見つめ、凪は不思議そうに首を傾げる。

「光秀さん、どうして…というか私、ずっと寝てました?」
「今はおそらく四つ(10時)前辺りといったところか。まあそれなりに眠っていただろうな」
「四つ…!?滅茶苦茶寝坊……」

硯に筆を置き、文机の前から立ち上がった光秀が凪の傍に近付くと、枕元付近で正座した。普段の白着物に白袴姿である光秀はとっくに起床して仕事をしていたのだろう。何故自分の文机ではなく、凪の文机で仕事をしていたのか疑問に思っていると、ぼんやりした凪の額に光秀がそっと触れた。

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