第21章 熱の在処
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―――――翌朝、明六つよりも少し早い刻限。
瞼の裏側まで射し込んで来る眩い光と、自らの傍にある暖かい体温を感じて目を覚ました光秀は、遠くで聞こえる鳥の静かな囀りを耳にしながら隣で眠る凪へ視線を投げた。珍しく光秀へ背を向ける形ではなく、仰向けのまま首を襖の方へ向けていた彼女の姿を改めて視界に入れ、光秀は違和感に眉根を寄せる。
「……凪?」
唇に小さな音を乗せて呟きを落とし、上体を起こして片手を伸ばした。背けられた顔にかかる長い黒髪を指先で優しく払った光秀が、頬へ自らの手のひらを触れさせる。元々体温が高めな彼女の頬はいつでもほんのりと暖かいが、今光秀が触れているそれが普段よりも数倍熱い事に気付き、褥の上で膝を滑らせた男は凪の顔を自身の方へ向けさせた。
「まさか、昨夜からか」
抵抗なく顔の向きを光秀の方へ向けた凪の顔は真っ赤であり、些か苦しげに寄せられた眉根と薄く開かれた唇から繰り返される浅い呼吸により、目元を険しくした光秀が呟く。
昨夜、光忠が途中で部屋へ訪れた後、第三者の前で堂々と口付けを深くした事へ怒っていた凪は光秀の胸に顔を埋めたまま、結局眠ってしまっていた。確かに凪の身体は昨夜からずっと熱かったが、それは酒と光秀が散々与えた口付けによって熱を上げたのだとばかり思っていた彼は、戦疲れもあるだろう凪を抱き上げ、そのまま褥へと運んだのである。その際、口付けの間中握り締めていた男の着流しを凪が離そうとせず、それを無理矢理引き離す事が出来なかった光秀も、そのまま褥で休んだという訳だ。
(体調不良の様は見て取れなかったが、慣れない戦と野外での寝泊まりで、思った以上に身体が堪えていたのかもしれないな。……凪の不調を見過ごすとは)
とはいえ、このひと月の間で凪が体調を崩した様子は一度も目にした事がない。おそらく本人自体も自覚がなかったのだろう色濃い疲労からの不調を気付けなかった事とて、致し方ないというものだ。だが、そんな言い訳は光秀自身には通用しなかった。惚れた女の具合ひとつ見抜けないとは、男として情けない。