第21章 熱の在処
「苦しかったか?お前は息継ぎが下手だな」
「…光秀さんの…、所為…っ」
「それはすまない事をした」
側頭部に添えていた片手を頬へ移動させ、火照った柔らかなそこを大きな手のひらで包み込む。ひんやりとした感触にゆるゆると力なく瞼を下ろした凪を見つめ、気遣いを覗かせた後でくすくすと微かな笑いを零した。その小さな笑いを耳に捉えた凪が伏せていた瞼を持ち上げると、些か不服そうに眉根を寄せる。力なく握った着流しを掴む指先に、せめてもの抵抗と抗議で力を込めれば、肩を微かに揺らし笑った男が言葉だけと思わせる謝罪を与えた。
薄く唇を開いたままの凪は、そこから浅い呼吸を繰り返している。熱に浮かされた肌はしっとりと火照り、真白なそれが淡い朱を帯びる様がいじらしい。覗かせたままの鎖骨、左側の衿を直さずにいた為、微かに露わになっていた細い線もまた、薄っすらと淡い桜に染まっているかのようだ。
「少し熱いな。あまり呑んではいなかった筈だが」
「…それも、全部…光秀さんの所為…」
「………言っている意味を理解しているのか」
「してます、だって、光秀さんの…」
所為────と、続く筈だった凪の言葉は、重なった唇によって封じ込められる。
「ん…っ、ふ…ぁ…」
「……凪」
伏せた瞼をそのままに、柔らかな唇を食む。口内を湿った舌で蹂躙する度、包み込むような熱が互いを繋いだ。幾度も交わした所為で、どちらのものとも分からぬ唾液を呑み込んで微かに喉を鳴らし、ひたすら舌先で愛を注ぐ。合間にほんの僅か唇を離し、すぐに触れてしまいそうな距離で彼女の名を呼んだ光秀の眼が抑えられない恋情を灯し、影の中で鈍く光った。
「愛してる」
それは、ともすれば聞き逃してしまいそうな程に低く掠れた声であり、ほとんど吐息のような囁きは、再び重なった口付けから溢れる水音でかき消されてしまう程に密やかなものだった。
頬を優しく撫でる指先の感触に瞼を持ち上げ、酷くぼんやりとした思考の中で凪は眼を静かに瞬かせる。
(────…今、なんて…)
問い返す間もなく、凪の意識は光秀の唇によって翻弄されてしまう。光秀の言葉を耳にした途端、一気に身体中が沸騰したかのような感覚に陥り、目の前がちかちかした。