第21章 熱の在処
凪の目元が途端に朱を走らせた様を目の当たりにし、光秀の眸が微かに険を帯びる。何か朱に染まるような事があったのか、そういったやり取りを自分が知らぬ間に交わしたのか。考えれば考える程、焦がれるような感覚が胸を焼く。
「あるいはこれを、捧げる事か」
追い詰めるように重ねた言葉に、凪が息を呑んだ。光秀が触れた箇所は凪の柔らかな唇であり、親指の腹でゆっくりと下唇をなぞった彼は、再度鼓膜を容赦なく揺らして来る。
「……もしくは、もっと深く秘めた場所を捧げろとでも言われたのか」
「………っ、」
唇から離れた手がゆっくりと触れるか触れないかの間隔を保ち、身体の中心をなぞって行った。やがて腹部の辺り、今は膝を折っている為、直接触れる事など出来ない下腹部付近でひたりと手を止め、ほとんど確信を持って言い切られた瞬間、凪の顔がいっそう上気する。その反応を目にし、光秀の眸に苛立ちが過ぎった。
「…そうか」
瞼を一度伏せ、短く告げた後で光秀はその場所から手を退かす。無意識の内に息を詰めていたらしい凪は、そっと吐息を溢しながら光秀の顔を見上げた。長い睫毛が伏せられる様は、中途半端な明るさの淡い月灯りを浴びてきらきらと輝く。整った男の顔を見つめたまま、ふと気まずさと後ろめたさに面持ちを曇らせた凪の視線が自然と空の盃に落ちた。
凪を責めるのはお門違いというものだ。彼女はそれだけの覚悟を持って毒に倒れた者達を救おうとしたのだから。そもそも、恋仲でも何でもない自分が口出し出来る事など、限られている。故に、そっと光秀は心の奥底に滲む怒りと焦燥を押し込めた。
(………き、気まずい!!!)
しばし無言になった光秀と、色んな意味で知られたくなかった秘密(という程の事でもないが)を暴かれた凪の間に、何とも言えない沈黙が流れる。正直に言ってとても気まずい。酒でも呑んで紛らわそうとしても、凪の盃は光秀によって空にされた為、何も入っていなかった。取り敢えず銚子を手繰り寄せようと身を動かしかけた瞬間、背に回されていた光秀の腕が無意識か、あるいは意図的か、彼女の動きを軽く押さえる。
「…み、光秀さん…っ、あの…取り敢えずお酒、呑みませんか」