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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第21章 熱の在処



光秀が動こうとしたのを止めたのは、清秀へ本当に自分の身を捧げなければ解毒薬が貰えないと思ったからに他ならない。しかし、改めて言われてしまうと何故かとてつもなく後ろめたい気持ちが湧き上がり、つい逃げるようにして盃へ視線を落としてしまう。

「凪」

低くしっとりとした声が名を呼んだ。凪の顔に触れていた指が流れるように動き、彼女が両手で持つ盃が優しい所作で奪われる。光秀の行動につられてか、自然と顔を上げた凪の視線の先で、奪った盃を呷る光秀の喉がそっと上下に動いた。
白い肌と男らしい首筋のラインが上を向く事によりいっそう強調され、艶(なまめ)かしく見える様につい耳朶を赤く染めた彼女が、咄嗟に下を向く。空になった盃を彼女の両手に戻し、顎へ指先をかけて凪の顔を上向きにさせた光秀が漆黒の眼を間近で覗き込んだ。

「二つ目の条件は何だ?……ここに、触れさせる事か」

顎にかけていた手をするりと撫で下ろし、寝間着の上から左の鎖骨辺りを撫ぜる。薄い生地越しに触れた男の指先が細い鎖骨をなぞり、上の小さな窪みを軽くくすぐった後、鎖骨の下────清秀が軽く口付けた場所を親指の腹でぐっと軽く押した。

「あ、あの…っ」

光秀の口元には薄っすら笑みこそ浮かんでいたが、やはりその目は笑ってなどいない。何もかもを暴かんとする金色の眸が妖しく光り、凪の動きを探っている。偽りを見逃すまいとする男の目に小さくどもり、言葉を切った。清秀の前できっぱり言い切った時は完全に割り切れていた筈であるのに、こうして光秀を前にすると尻込みしてしまうのは、何故だろう。

────もしかして、光秀殿がこの場に来たから?

不意に脳裏を過ぎった男の言葉に、凪の目元が赤く染まった。あの場へ光秀が来た途端、覚悟が揺らいだ事を言い当てた清秀のそれに、凪の心がぎゅっと痛みを帯びる。
自分が何と何を秤にかけ、結果どちらを選んだのか。選んだ事自体に後悔などしていないが、その答えをはっきり光秀相手に伝える事が、無性に怖いと思ってしまったのだ。

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