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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第21章 熱の在処



輪郭を滑る指先の甘さに反し、問いを投げる光秀の目は何となく笑っていない気がして、凪は内心冷や汗を流した。目敏いこの男の事だ。清秀と凪が居る場に駆け付けた際、ばっちり見られていたのだろう。廃寺では凪は光秀達に背を向けた形で立っていた為、結局清秀が居る間は振り返る事はなかったが、今思い返せばそうしなくて正解だったなとすら思う。

「交換条件で貰いました。摂津で渡された錦木と新しい簪を交換させてくれれば、解毒薬の半分を渡すっていう条件で」
「つまり、お前は二つの条件を呑んだという事だな」

清秀がどんな意図で簪を交換したのか、というのはおそらく深い意味などない筈だ。あの男も愚かではない。二度も凪に会えば、その性格はおおよそ把握出来る。単純に渡したところで素直に受け取って貰えないと判断し、解毒薬を餌として、もっともらしい理由を付けつつ渡したのだろう。
凪の口から語られた事実を耳にした光秀は、無言のままにそう推測した。些か低くなってしまった声色は仕方のない事だ。自分が好いた女が、他の男から簪を贈られたなど、気分が良い筈がない。とはいえ凪を責める事が出来ないのも道理である。彼女は、ただ毒に倒れた仲間達を助ける為だけに、あの男と対峙する形を選んだのだから。

「残り半分を貰わないとと思って……でも、」

しかしながら、半分とはなかなかせこい事をする。と光秀が内心で溢していたところで、凪が遠慮がちに言葉を切った。彼女が両手に持ったままである盃の中身が風でゆらりと波立つ。それへ何故か妙なざわめきを感じ、光秀は視線を向ける事で先を促した。

「もうひとつの交換条件は、最初から本気じゃなかったみたい、だったから」
「………あの時、お前は俺に待てと言っただろう」
「私もあの時は本気だと思って覚悟決めてたんです。それに機嫌を損ねたら、解毒薬が貰えなくなるかもって思って」

言い淀む凪の口振りに、光秀がそっと眉根を寄せる。本気でないならば、何故止めた。言外にそう問いかけて来る光秀の視線を受け止め、凪は気まずい心地を隠せず視線を彷徨わせる。

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