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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第5章 摂津 壱



そのまま盆を端へ寄せ、凪が座す前へ向かい合うようにして置いていた座布団へ腰を下ろした光秀は、置いた湯呑みを手にすると湯気が十分に立つ程熱いだろう茶を一気に流し込む。

(え、熱くないの!?)

先程までの不安を吹っ飛ばすような光景に眼を丸くした凪を見て、光秀は空になった湯呑みを盆の上へ戻した。

「熱くないというわけではないが、それだけだな。見たところお前も猫舌ではなさそうだが、少々熱めの茶だ。舌を火傷しないよう精々気を付ける事だな」
「な、なんで私が思った事がわかるんですかっ」

声に出していない筈の言葉に返答があった事へ動揺し、丸くなった眼が怪訝に染まる。
視線がそっと湯呑みへ行ったり来たりしている様に加え、自然と突っ込みを入れて来た凪の様子に、光秀はようやく彼女が普通に振る舞えるようになった事を確認し、緩く笑んだ。

「お前は基本的に顰め面か仏頂面だが、それにも中々種類があるようだ。一日じっくり観察していれば、さすがにその傾向も見えて来る。先程の表情は、そんな一気に茶をあおって熱くないのか、といったところか」
「私の心の突っ込みと勝手に会話しないでください…」
「それは失礼、驚きで丸まった目があまりに分かりやすかったものでな。…さて、仔犬の機嫌も直ったところだ。お前が茶を飲み終えるまで、不安な顔を浮かべていた原因を最低限ではあるが、取り除くとしよう」

本当の意味で見抜いていたのは、熱い茶を一気にあおった事への突っ込みではなく、室内へ戻った時に垣間見た不安げな凪の表情の原因だった。
光秀の真意に気付いた凪は驚いた様子でそっと息を呑む。昨日の旅路でも痛感した事だが、光秀は他人の事を自然に、しかししっかりとよく見ていた。

(今更だけど、凄い観察眼…)

そろりと伸ばした指先が湯呑みを掴む。湯気の立つそれへ幾度か控えめに息を吹き掛けて冷ました茶へ口を付ける様子を前に、光秀がおもむろに口を開いた。

「お前は俺の言う事を聞き、良い子にして身を委ねていろ。それがこの任でのお前の役割だ」
「……凄く曖昧な役割ですね」

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