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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第21章 熱の在処



お仕置きスタイルに少しずつ慣れを感じていた凪は、良い香りと美味い酒ですっかり油断しているようだが、残念ながら本題はまだこれからである。機嫌の良いその表情を引き攣らせるのは如何なものかとも思ったが、光秀もこの件については容易に流す事は出来ないのだ。

「……さて、気を良くしているところすまないが、訊きたい事がある」
「…う、なんでしょう?」

このままのんびり静かな縁側の酒盛り…というような展開で終わりはせず、凪は一瞬忘れかけていたお仕置きについてぎくりと身を竦ませる。盃を両手で持ちながら、小さく呻いた彼女を見つめ、光秀が静かに問いを投げた。

「あの男と一体何を話した?」

あの男───とは、言わずもがな中川清秀の事である。以前安土城の廊下で彼の話になった時、協力するつもり、とはっきり口にしている為、光秀に隠す事は出来ない。とはいえ、正直に言えば、あまり有益と呼べるような事は言っていなかった気がする。散々悩んだ末、凪はぽつりと呟いた。

「あの人、私に教えて欲しい事があるって言ってました。私の色んな表情を見たいって。だから、今回の戦も裏で糸を引いたり…それから、毒を」
「……そうか」

最後は些か沈んだ調子になった凪の声に気付き、光秀が片手を伸ばす。宥めるかのようにしっとりとした黒髪を梳き、そっと指を下へと滑らせた。指通りの良い髪の感触を楽しみつつ、受け取った言葉へ思案を巡らせる。

(清秀殿の行動原理が、凪にあるという事は今後も何らかの形で接触して来る事は必定だな。ある程度自由にさせてやりたいとは思ったが、やはり今しばらく一人での行動は避けるべきか)

護衛されている立場という事もあり、凪は誰かの付き添いがなければ自由に出歩く事が出来ない。彼女がこの乱世に腰を据えて生きていくという以上、いつまでも自由を拘束するような真似は避けたいが、危険が伴う可能性があるならば致し方ない。現在抱えている自らの任を脳裏で整理し、瞼を一度伏せた光秀が凪の頬を指先でくすぐる。

「ところで何やら新しい簪を挿していたようだが、あれはどうした」
「……大体の事は分かってるくせに」
「万が一俺の予測が外れていては困る。お前の口から確かめなければな。…それとも、忘れてしまったか?」

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