第21章 熱の在処
光忠が彼女に酒を勧めろと言ったのは、光秀が凪の誘いをおいそれと断れないと見越しての事だろう。見透かされているのは些か不服ではあるが、今宵くらいは悪くはないかと受け取った盃を大きな手の中で弄ぶ。
「……そうか、ならば仕方ない。今宵はお前の誘いに乗ってやるとしよう」
「ちょっと言い方があれですけど、この際乗ってくれるなら何でもいいです。じゃあお酒注ぎますね」
「いや、少し待て」
薬酒が用意された銚子を持とうと、振り返った凪を唐突に短く制した。反射的に動きを止めた凪の不思議そうな視線を受け、光秀は自らの膝をとん、と一度だけ叩く。悠然と刻まれた笑みと、その行動により意図を察したらしい凪の顔が苦いものへと変わった。
(…やばい、あれはお仕置きスタイルの合図…!?)
お仕置きスタイルとはつまり、光秀の胡座の中に横抱き状態で収まるアレの事である。既に三度目となるその体勢に関しては、暗黙の了解的な内容が込められていた。言わずもがな、その名の通りお仕置きである。
「な、なんでお仕置き…!?」
「ほう…?まさか半日前の出来事をもう忘れたのか。やはり記憶力が極端に欠如した可哀想なおつむらしい」
「……え、もしかしてアレを今掘り返します!?」
「仕方がない。俺が可哀想なお前の記憶を取り戻す手伝いをしてやろう」
ここに来てまさかのお仕置き発言に戦慄した凪が狼狽を見せる。しかし光秀はただ笑みを口元に刻むだけであり、眇めた眼でじっと彼女を見た。微塵も引く気がないらしい光秀へ窺い立てるよう声を上げれば、男はわざとゆっくり音を紡ぎ、凪の鼓膜を震わせる。
「じっくり丁寧に質問をしてな」
(楽しくお酒呑むだけじゃなかったの!!?)
誘いに乗ってくれた真の理由はこれだったのか。と内心で身震いした凪を今一度催促するよう、とん、と光秀が己の膝を軽く叩く。これはやらないと延々に解放されないだろうと判断し、凪は意を決して半ば自暴自棄になりながら渋々立ち上がり、光秀の膝の中に横向きで収まった。
「……お邪魔します。はい、まずはどうぞ」
「ああ」