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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第21章 熱の在処



ふと我に返った凪は、文の順番を入れ替えつつ、他に散らばった文をすべて拾い終える。そうして元あっただろう位置へ置き直そうとした瞬間、彼女はその手をぴたりと止めた。

「何でちょっともやっとしてるんだろ。別に光秀さんが女の人から手紙貰ったところで、関係ないのに」

関係ない、とわざと声に出したのはそうして否定をしたかったからである。地位もあり、あの容姿と声、性格、女性の扱いの慣れ加減をある種パーフェクトに持っている光秀ならば、恋文の一通や十通くらい貰っていたっておかしくはない。そう分かり切っているというのに、何故か凪の心の中に仄かな不快感が広がった。

「……別に気にしてない。気にしてないし。これっぽっちも、まったく」

そう呟きながらも、凪の言葉に反して手が勝手に動く。甘い匂いを漂わせる文を片手に取り、飛ばされてしまった文の束の一番下にそれを回した凪は、何とも言えない複雑な表情のまま、文机の上に置いた。今度は飛んでしまわないよう書簡を文の上に置き、そそくさと文机から離れ、縁側に座り込んだ瞬間頭を抱える。

(別に気にしてないけど、一番上に恋文置くのは何かちょっと居た堪れない…!!)

別にまったく微塵も気にしてなどいないが、色々な面を考慮し、一応飛んだ束の中では一番下に重ね、それでも完全に隠してしまうのは悪いかと思い、見えるように軽く端の部分を覗かせつつ置いた凪は、一体何をしているんだ自分と激しく突っ込みながら縁側の板間に横から倒れ込んだ。

「板間、冷たくて気持ちいい」

板間に触れた片頬がひんやりとした感覚に包まれ、凪が瞼を閉ざす。半乾き状態の髪は結わずに流したままであり、妙な格好で居ると変な癖がついてしまうと分かっていながらも、凪はそこから身動きが取れなかった。きっと疲労の所為だろう。少しばかり身体が気怠い。胸の奥に淀むもやもやとした感情をすべて冷やしてしまうかのように、凪はひんやりとしたその場で身体を倒したまま、しばらく静かに瞼を閉ざしていた。

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