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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第20章 響箭の軍配 参



「その意味、光秀さんなら分かる筈です。……光秀さんが、一番分かってるでしょ」

────私が過ごしていた五百年後の日ノ本は、少なくとも、この時代のように各地で戦が起こるような事はない、とても平和な世だと思います。

山城国の宿で、凪から五百年後の人間だと明かされた時。初めて耳にした言葉が光秀の脳裏を過ぎる。時代は積み重ねられ、先人達が築いてきたものがあるからこそ、今がある。光秀が凪に情勢を指南した際、それを念頭として大まかな過去を教えて来ていた。後の世に生まれた凪にとって、この乱世はそれこそ、先人が紡いで来たものと変わりはない。
過去があって、現在(いま)がある。それから目を逸らす事は、多くの過去を、この乱世を否定するのと同義なのだ。

「だから、私はどんなに反対されても出来る事があるなら戦場に立ちます。……戦う事は出来ないけど、それ以外にやれる事を見つけたから」

(……お前は本当に、俺の言う事を聞かない。摂津で危険と無茶を通した時も、今も)

毅然とした様子で言葉を紡ぐ凪を、光秀は静かに見つめていた。凪はいつも真っ直ぐに伝えて来る。その愚直さが心地よく、眩しいと感じてしまうのは、自分がすっかり彼女に心を奪われているからなのかもしれない。

「…光秀さんがそう言ってくれるのは、多分私を心配してくれてるからなんだって、分かってます。でも、それなら私だって一緒ですよ!私だって光秀さんが心配です。だから、そんなに心配だって言うなら────」

一度言葉を切って凪が一歩光秀との距離を詰めた。この座布団からこちらは自分の領域だから、入って来ては駄目だと告げていた、ひと月前の凪ではもう無いのだと、何故か今改めて思い知る。顔を上げ、光秀の眸を真っ直ぐに覗き込んだ。やがて何処か怒ったように眉根を寄せた彼女が、ほとんど一方的に言い切る。

「ちゃんと帰って来て、私が無事だって確かめに来てください。私は自分が居るべき場所で、無事で待ってます。……だから、光秀さんも無事で戻って来て」
「……凪」

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