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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第20章 響箭の軍配 参



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兵達へ撤退の指示を飛ばし、陣内を歩く。途中で光忠の簡易的な報告を耳にし、眉根を微かに寄せた。人に聞かれる事を考慮して最低限の言葉で伝えて来た光忠のそれによれば、自主的な凪の【目】の力は、命に別状があるようなものではないものの、彼女の身体にそれなりの疲労などを蓄積させるようである。可能な限り今後も使わせたくはないが、彼女の性格を思うと、意思を説き伏せるのはなかなか骨が折れるだろう。

撤収に勤しむ兵達の合間を縫い、凪の姿を探す。凪は気を遣ったのだろう、兵達に指示を飛ばす光秀の傍に、自らやって来る事はなかった。そのまま医療兵達と共に撤収の手伝いをしているだろうと見当をつけて来てみれば、案の定凪は重くない小さな荷物を運ぶ為に台車と天幕を行き来している。

「凪」

背後から声をかければ、傍で手伝いをしていた光忠が軽く目礼をした。視線で光忠へこの場に留まるよう伝えた後、振り返った凪が光秀を映して目を見開く。やがて安堵した様子で口元を綻ばせた。

「お疲れ様です。もう大丈夫なんですか?」
「ああ、大まかな指示は終えた。……おいで、話がある」
「……?はい」

問いかけに頷いて見せた後、凪を呼ぶ。不思議そうに首を傾げた彼女だったが、特に何かを問う事なく手にしていた荷物を光忠へ任せた。身を翻して歩き出すと、その背を追って凪が歩き出す。手を繋いでいない所為で隣に並ぶ事のない彼女へ、それでも歩調だけは合わせてやりながら陣から少し離れた場所へやって来た。勝利を喜ぶ兵達の明るい話し声が風に乗って微かに聞こえて来る中、木々の合間で立ち止まった光秀に倣い、凪も足を止める。ここに至るまでの道中、一言も発していない光秀の背を怪訝に見ていた凪は、自身の方へ振り返った男の表情を前にし、微かに目を瞬かせた。

光秀は、ひどく真剣な面持ちを浮かべている。ぬるい風に銀糸をさらさらと揺らし、木漏れ日の合間から注ぐ光を受けていっそう眩く輝く様は美しい。美しいからこそ、何かとても大切な事を伝えようとしている光秀自身を惹き立たせる。

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