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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第5章 摂津 壱



肩を竦めた光秀を前に、眉尻を下げて困ったような表情を浮かべた九兵衛は悪びれた様など微塵も感じない主に肩を落とす。
湯気の立つ湯呑みの乗った盆を渡されれば、礼を告げて男が身を翻した。
木戸を開いて厨を後にする直前、首だけで九兵衛を振り向いた光秀が口を開く。

「引き続き、頼んだぞ」
「かしこまりました。光秀様もどうぞお気を付けて。…凪様をあまり困らせないで下さいませ」
「それは仔犬次第というものだ」

丁寧に目礼した部下に対して口角を持ち上げた男が、部屋へ戻って行く様を見送りながら凪を案じる言葉を投げた九兵衛は微かな溜息を漏らす。
安土を発つ前夜、突如として一部変更された策の内容を思い起こしてつい遠い目をした優秀な部下は、遠ざかる男の白い後ろ姿を見つめたまま、口内で思わず零した。

「…まったく、仕方のない御方だ」

それが聞こえているのか、いないのか。
襖を開けて室内へ主が足を踏み入れて行くのを見届けた九兵衛は、自身の任を遂行するべく、厨の裏口から静かにその場を立ち去って行った。



──────光秀と九兵衛が厨で言葉を交わしていた頃。

光秀に用意してもらった座布団へ言われるがままに腰を下ろした凪は、一息つくと室内をぐるりと見回した。

強行軍とは言えど、散々馬に乗り慣れていた凪にとってはそこまで苦ではない。政宗の豪快な馬捌きとは異なり、光秀が捌く馬はあまり大きな揺れを感じない所為でもある。
初日である昨日よりは慣れもあるのか、過度な疲労があったわけではなかったが、体力よりも精神の方が若干擦り切れている感は否めなかった。

(…でもまあ、ちょっと大人気ない態度だったかな)

添い寝事件の後、かなり素っ気ない態度であった己を振り返り、さすがに反省する。…と言っても、やはり光秀が悪いという結論だけは変わっていないのだが。
そもそも、凪は最初こそ怒っていたとは言え、途中からそれは既に割り切っていて、今は別に何も思っていない。ただ、暫く怒った風な態度を取っていた事もあり、引っ込みが付かなくなったというだけだ。

(いや、ほぼ初対面…というか会って四日目の男が隣で添い寝してたら普通は怒るでしょ)

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