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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第20章 響箭の軍配 参



地に両膝をつき、信長の前で頭を深々と下げ、額を擦りつけんばかりの勢いのまま、政忠が声を張り上げる。その瞬間、大名を囲んでいた敵兵達が次々と武器を捨て、武将と同じように膝を折り、平伏するよう頭を下げた。
頭を下げていないのが大名だけとなった状態で、光秀は小さく吐息混じりの笑いを一つ溢した後、馬上のまま進み出る信長の背後へ静かに控えた。

「……いいだろう、貴様は今この時から天下布武を進める俺の駒だ。俺に尽くし、よく仕えろ」
「はっ!」

がくり、と馬上から降りた大名が力なく地へ両膝をつく。呆然とした状態で何も言葉すら発する事が出来ず、ただ己の愚かさと過ちに後悔するばかりのその姿もまた、小国を内側からゆっくりと蝕んで行く毒の被害者と言っても過言ではない。

かくして、二日間に渡る小国での戦は、敵将が信長に下るといった形にて幕引きとなった。今後は織田領として新たな体制を敷かれる事となる小国の管理は、元々この国を故郷として持つ武将───木沼政忠に一任され、定期的に信長の元へ近況の報告をする事、武器の仕入れや兵糧、兵力を持つ際は信長へ申し出る事など、幾つかの制約が交わされた。民達の税の徴収においては信長が定めた測量法が適用される運びとなり、不当な徴収や横領が出来ないような措置が取られる。そして、今回の目的のひとつであった南蛮筒及び弾薬はすべて織田軍が回収する運びとなり、その管理を光秀が一任される事となった。

戦の後、本陣を制圧した家康の報告によれば、中川清秀と思わしき人物の姿を見た者は誰もいないという事である。一通り本陣内を確認した彼が最後に立ち寄った天幕、その中に置かれた床几(しょうぎ)の上に、鮮やかな桃色に姿を変えた一輪の酔芙蓉(すいふよう)だけが残されている以外、男の痕跡を残すものは、何一つとして無かったのだった。


────────────…


戦は織田軍の勝利で幕を閉じた。光秀隊の伝令が持ち帰った情報を耳にした瞬間、後方の陣は大いに湧いた。毒にやられた者達は未だ回復を待っている最中だが、意識の戻った者達は病床で勝利を喜んでいる。無事であった金瘡医や医療兵達も肩を組み合って喜び合う賑やかな歓声を天幕内で聞き、凪はそっと安堵の息を漏らした。

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