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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第20章 響箭の軍配 参



「なに、そちらの鉄砲衆へ簡単な細工を施しただけの事」
「細工…だと…」
「いかにも。種子島とは異なり、先込め式が多い南蛮筒の特性を活かし─────弾薬を一部、すり替えさせてもらった」

金色の瞼を伏せ、驚く大名の顔など見るべくもないと言わんばかりに口角を上げ、覗かせた眸で地へ投げ捨てられた何丁もの銃を見やった。光秀の物言いに何事が思い当たる節があったらしく、一人の兵が声を震わせる。

「そういえば、出陣の直前に清秀様の遣いと名乗る兵が現れて…長雨で火薬が湿気てしまっただろうから、新しいものを仕入れたと…」
「馬鹿者!!何故清秀殿本人に確認を取らぬ…!?」
「…殿、それは不可能でしょう。清秀様は今朝方から姿がお見えになりません」

兵士が言う清秀の遣い、とは光秀の斥候がなりすましたものであり、それによって運ばれたのが例の黒い箱という訳だ。織田軍お抱えの銃職人へ予め頼み、わざと不発になる仕様の弾薬を用意させていたのである。怠慢が生んだ綻びに震える大名を諭すかの如く、政忠は静かに告げた。政忠だけは清秀がこの戦に本気で臨んでいない事に気付いていた為、あの男が姿を消したという事実にはさして驚きはしなかったのだが。

「く…っ、おのれ…!!」
「毒をけしかけるつもりが、取り込んだ身の内の毒に、まんまと己が身を滅ぼされたか。……大した余興だな」

それまで黙って事の成り行きと光秀の仕込みについて耳にしていた信長は、まったくつまらなさそうに無表情のままで抑揚なく告げた。幾つもの罵声と屈辱を浴びせられ、握った拳を震わせた大名は怒りを隠しもせず、もはや自暴自棄となったのか帯刀した刀を抜き去り、兵達に向かって声を上げる。

「黙れ黙れ!鉄砲衆を率いているとて、所詮はったりよ!先程まで続いていた長雨の所為で、種子島などとっくに使い物にならんわ…!攻めよ!魔王と化け狐の首を獲れ…─────」

パァン!!と甲高い銃声が響き渡り、大名の兜の真上すれすれを鉛玉が凄まじい速度で通過した。じり、と焦げついた兜を見て、武将が短く息を呑む。眼を見開いたまま、微動だにする事も出来ないでいる大名の視線は、正面に立つ男へ向けられていた。

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