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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第20章 響箭の軍配 参



背後にずらりと鉄砲衆を引き連れ、構える彼らの前に立った光秀が信長へ視線を向け、そっと瞼を伏せた。なかなかに白々しい態度を見せる食えない相手を信長が鼻で笑い飛ばす。

「光秀、待っておったのは貴様の方だろう」
「否定は致しません」

何食わぬ表情のまま、さらりと言ってのけた光秀を見つめ、政忠は馬上に居る二人の男を見た。すっかりと晴れ渡った空は夏らしい爽やかな青を広げており、遠ざかる鈍色の雲の代わりに白く透けるような雲が風に流される。雨上がりという事もあって湿気を孕んでいるぬるい風が、冷や汗を垂らす武将の頬を撫ぜた。二つの鉄砲隊は、声をあまり大きく張らずとも聞こえる程度の距離感を保ち、互いに銃口を向け合っている。
大名は後方からやって来た光秀率いる鉄砲衆を一瞥し、冷や汗を滲ませながらも、虚勢なのか、あるいはまだ自らが勝利を収めると確信しているのか、あくまで強気な姿勢を崩さない。

「……化け狐が!今更駆け付けても遅い。貴様等が持つ種子島の何倍も優れた、我が南蛮筒部隊の力を今こそ見せつけてくれる…!お前達、化け狐と魔王を血祭りに上げろ!!」

構えを解かぬまま睨み合っていた、敵の南蛮筒部隊最前列が安全装置を外し、狙いを定めて引き金を引いた。驚きに目を瞠る武将が息を呑んだ瞬間、光秀の口元が実に愉快そうに歪む。
しかし、前列の兵達が一斉に引き金を引いても、彼らが構える銃はまったく動作しなかった。かちかちと硬い金属質の音を立てながら銃をいじる彼らの中で、一丁が突如として兵の手元で暴発する。

「うわあっ!!?」

バンっ!!と火薬が弾けるけたたましい音を立てた銃が地面へ落下した。暴発した銃を持っていた兵は腕に火傷を負ったらしく、片腕を押さえながらその場に蹲る。仲間の様子に衝撃を受けた南蛮筒部隊の者達は怖気づいた様を隠しもせず、わあっ!と情けない声を上げて銃を地面へ次々と投げ捨てた。

「な、何をしておる…!!撃て!撃てーい!!」
「その命は今すぐ取り下げる事を強くお勧めする。信長様の領地となろう国の兵を無駄に減らしたくはない」
「なんだと…どういう意味だ…!何故銃がこのような…」

如何に大名の命とは言えど、然程忠誠心を集められない男を相手に、己の命を賭ける者がどれだけ居るだろう。

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