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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第20章 響箭の軍配 参



やがて何事かを企てたかの如く口角を一瞬上げた彼は、刀の軌道を即座に変えて背後の大名に向けて一閃する。

「殿!!」

武将は声を上げ、逃れる間もない大名の前へ躍り出ては、そのまま槍の柄で何とか信長が放った重い一撃を受け止めた。歯噛みする男の、必死の形相を見て取った信長は微かに眼を眇め、一度刀を引く。

「よ、よくやった…政忠…お前には後々褒美を…!」
「いい加減になさいませ!もう結果は見えております!!」

自らを守った武将に対し、青白い顔をしていた大名が告げたと同時、それを遮るかの如く、政忠は声を張り上げた。空気を震撼させる程の鋭い一喝を耳にし、大名が一瞬呆けた顔をするも、すぐに顔を赤くして激昂する。

「おのれ政忠!!主君たる儂に何たる無礼…!!」
「貴様、とんだ阿呆だな」

大名の激しい声を冷たく淡々とした声が遮った。顔を上げた先、感情の宿らない緋色の眼が男を射竦める。刀を突き付けられてすら居ないというのに、喉元へ切っ先をあてがわれているかのような錯覚にさえ陥らせる信長の怜悧な威圧が辺りを震わせた。よもや信長が間に入るとは思わず、驚きの眼で固まった武将は、言葉もなく槍を構えたまま立ち尽くす。

「政忠、と言ったか。貴様、俺に仕えろ」
「は!?」
「な…っ!?」

素っ頓狂な声を上げたのは大名であり、武将は呆気に取られた様子でただ短い言葉を発しただけだった。堂々と敵方の主君の目の前で敵武将を引き抜く発言をかました信長は、冗談とは到底思えないような面持ちで強気な笑みを浮かべる。

「俺は使える駒を易々と切り捨てはせん。貴様が俺に下るなら、そこの使いものにならん頭をすげ替え、貴様を城主に据える」
「な、何を急に馬鹿な事を…!!このうつけが…!」
「……兵の、兵達の命や、民達の事は…!」

信長の唐突過ぎる発言に怒りを露わにした大名が罵声を浴びせたその前で、武将はまず自分以外の命を慮るような発言を零す。何故なら、敗戦国の兵や民達の扱いは何処までもむごい。それを知っているからこそ、この戦は勝たねばならないと強い意思で立って来たのだ。武将が無関係な者達を思うのは当然の事と言える。

武将の必死な問いかけを耳に、信長は至極呆れた様子で眼を眇めた。冷たい空気を相変わらずまとい続ける男の威圧感や雰囲気にあてられ、周りの兵達も身動きが取れず、固唾を飲んで答えを待っている。

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