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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第20章 響箭の軍配 参



──────ヒュンッ!!と鋭く甲高い音が天から響く。
一瞬で頭上を通過した真っ白な一矢が、太陽の光を受けてきらりと光った。それは間違いなく凪が陣から放った一射で、綺麗な放物線を描きながら山の下へと落下して行くのを見やり、光秀は微かに口角を持ち上げる。

銃身を肩へ乗せたまま、片手で手綱を操った男が馬首を返し、兵達へ振り返った。湿気を帯びたぬるい風が頬を撫ぜて濡れた銀糸を重く揺らす様は、ようやく熟した機を喜ぶかのような冴え冴えとした光秀の笑みを、いっそう惹き立てる。そうして三日月の形に刻まれた唇が朗々とした音を響かせた。

「さて皆の者、軍配を上げるとしよう。…無論、勝者は我等織田軍だ」

兵達が上げる、地を揺らす雄叫びと共に光秀が先頭を切って駆け出す。一気に山を駆け下りる少数精鋭の光秀隊が勢いを殺さぬままに麓を目指すその合間、山下(さんか)で言伝られていた【響箭の軍配】の音を確かに耳にした信長が、空へ視線を投げると小さく笑いを零す。

「何者かは知らんが、なかなかの一射だ。……ようやく退屈な役目とやらも終わった。この俺が直々に遊んでやる。毒蛇に踊らされた腑抜け共」
「ふ、ふざけるな!政忠!魔王を今すぐ討ち取れ!!」

背後に居る大名が声を張り上げた。半ば強制的に鼓舞された武将以外の兵達は、戦々恐々としながらも雄叫びを上げつつ、双方の軍で激しいぶつかり合いを始めた。じりじりと保っていた織田軍の兵士達が、それまで溜め込んでいた力を一気に解放せんとばかりに手にした長槍を振るう。
大名を庇いつつも信長と直接刀と槍を交わし合っていた木沼政忠は、己の中に延々と巣食っていた違和感がこの瞬間、一気に払拭された事に気付いた。

「やはり何かの機を待っていたのか、魔王…!!」
「当然だ。貴様ら如き小国、これほど無駄に刻をかけずとも一瞬で捻り潰せる」
「……くっ!殿、ここは撤退を…!」
「ならぬ!!引いたところで末路は同じ!ならばせめて魔王の首を…!」
「くだらん戯言だな」

信長の容赦ない馬上からの攻撃に、武将は防戦一方である。背後にお荷物を背負っているのだから、存分に力が奮えないのはもはや道理である。信長は剣戟を幾度も飛ばしながら、一度背後の自軍の兵へ目配せをした。小さく頷いた兵が走り出したのを視界の端に捉え、自らの一撃を何とかいなしている武将を冷静に見た。

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